「―・・・卿はシルターベアトゥリスか?サン・マルティン・デ・トゥリエノ孤児院、元院長。」
硬い響きの声が、庭で草木の手入れをしていた彼女の耳を打ったのは、その日の昼過ぎのことだった。
「・・・はい?そうですけれど・・・。」
突然のことに驚きを隠せぬまま、彼女はゆっくりと顔を上げた。
的確に彼女の身分を言い当てたのは、僧衣(カソツク)を着た若い男だった。
歳はせいぜい20代前半といったところか。丹精に整えられた顔は、あまりにもよくできていて、人形じみた印象ですら与えている。
・・・それは、彼女には、一向に見覚えのない顔だった。
「あの、私に何か・・・?」
「俺は教皇庁(ヴァチカン)から来た神父だ。卿に、とある事件の重要参考人とされる人物について聞きに来た。これから俺の言う質問に、正確に答えてほしい。まず、ジェームズ・バ―」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
彼女は、手をわたわたと振って、神父の直球過ぎる問いかけを停止させた。
教皇庁(ヴァチカン)!?どうして、そんな偉い方々が、こんなバルセロナのいちシスターなんかのところに、来られるんですの!?」
「それは卿がある事件の重要参考人となっているからだ。俺は、そのことで卿にいくつか聞きたいことがある。」
「重要参考人・・・?」
一体何なのだ、この展開は?自分は何か教皇庁の逆鱗に触れることでもしたというのか?
「とっとりあいず!」
高ぶる気持ちを必死に抑えて、彼女は声を張り上げた。
「お話は、中に入っていたしましょう?それとも何ですか、それもできないほどに神父様お急ぎで?」
「・・・わかった(ポジティヴ)。では話は室内で行うことにしよう。」
そのなんとも奇妙な応えに軽く不安を覚えながら、彼女は人類の盟主の使いを、家の中の招きいれたのだった。