それは、遥か昔、伝説となった物語。
『王』となった青年は、夢を共に叶えた相棒…神が遣わした剣と別れる時が来ました。
けれど、青年と友情を結んでいた剣は、去り際に青年と一つ約束をしました。
その約束とは、青年の末裔が『王』であり、『剣』を見つけることができたなら、剣はその者の夢を叶えるために力を貸すという契約。
しかし、その契約は実行されることは、なかったのである。
なぜなら、青年は剣との友情を大切にしていたし、末裔達は誰一人としてその約束を口にしなかったし……何よりも、やがて彼らは『王』から遠ざかってしまったのだから。

 そして、これは数ヶ月前、白黒の街で………以下省略。
とにかく、決着がついた途端、女は顔色を失った。
「………っ、こんなの認められるかぁっ!!」
「…十六夜(いざよい)、口調が違うよ」
「はぅっ!」
男に窘められて、女は我を取り戻した。一つ咳払いをして侘びの言葉を口にし、再び席に着く。
「それで、望みは何ですの?」
「君が欲しいな」
「…ここで会う度に、ご一緒なさってるのは、どちらさまかしら?」
「ははっ。私は本気なんだがね。それとも、『覇王』は約束をお忘れになるほど呆けたのかな?」
女の顔から、全ての表情が抜け落ちた。整ったその顔は、人形のようである。
対する男は、微笑んだままである。女の絹糸のような長い黒髪に、男は指を絡めて、女ごと引き寄せる。
「とうとう、お覚悟を決められたようですわね」
「あぁ。私も先日で18になって、首を賭けてもいい、と思えるようになったよ。それに…そろそろ父上が危険でね。近い内…3年以内には後継を決めるつもりだと公表すると、本人から聞かされたよ」
「でしたら、いよいよ親戚や大臣方も本気でやって来ますわね…他国も。どうなさるおつもりで?」
「もちろん……迎え撃つまでだ。だから…」
一拍置いて、ひたと女の蒼い瞳を、翡翠と銀の色違えの瞳で見据えた。
「君を…くれるかな?」
「……『月』を見つけられたら。その時は、この話、お受けしますわ」
答えた女は艶然と微笑み、男はそれに満足気に頷いた。

―――だが。そのどちらも、当事者以外は誰も知らない、物語である。



予定外の珍客・4



 鮮やかに、しかし、無駄な動きは一つなく、彼は青年を守るように動いた。
圧倒されている間に、1人、2人と仲間が事切れていく。
「なんだ。つまらない」
そう口にした少年によって、また1人、血を流して倒れた。
残されたのは、4人。
青年は、傍らに戻ってきた少年の動きに眉一つ動かすことなく、冷静に呟いた。
「ふむ。彼らが弱いのか、それとも君が強いのか」
「そういった考察は、今度にしてくれ。殿下」
「そうだね。今は自分の身の安全が優先、かな」
「…余裕綽々だことで」
「君がいるからね。頼りにしているんだよ。緋月」
さらりと裏の名前を呼ばれて、少年は嘆息した。
逆に、その名前を聞いて衝撃が走ったのは、対峙する彼らであった。
「ひ、緋月!?」
「あの、当代最強といわれる、伝説の、緋の闘神がっ。こんな子供だと!!」
全員が信じられない思いだった。
噂では、血のように紅い髪と、白狐の面を着用した、18くらいの青年だと聞いている。
しかし、今目の前にいるのは、忍にはあるまじき色であるオレンジのつなぎを着た金髪の、新人下忍と称した、11くらいの少年である。
「あのさ。それが変化だとは思わないわけ?もっとも、どっちが本当か、教えてやる義務はないけどね」
あどけなさの残る少年は、くすりと年不相応な妖艶な笑みをこぼした。
背筋を、一気に凍りつく感覚が駆け抜ける。
「くそっ!!んなガキに!」
一人が耐え切れず、刀を構えて飛び出した。それを合図に、残っていた彼らも勢いよく襲い掛かる。
……だが、それは他の要素によって叶うことはなかった。
「なんだ。戦闘なら混ぜろや」
「僕らの上司に、手を出さないでくださいね」
それぞれ大包丁と刃先の一部が透明な剣を獲物とする、白い仮面を被った2人組。
突如現れた彼ら2人によって、襲い掛かった内2人は刃が少年に届く前に切り伏せられた。
「千夜、白夜!」
2人の名前を呼びながら、少年は向かってきた1人を難なく倒す。そこで、1人敵が見当たらないことに気がつき、辺りを見回した。
「あ、後ろです!!」
白夜の方が、青年を指差し叫ぶ。少年はすぐさまクナイを投げようと構えた……が、その前に素早く横切った黒い影が、その1人に飛び掛った。
(………お、おおかみ…?)
喉笛を引き裂かれ、血を大量に流す彼の脳裏に浮かんだ最期の言葉は、それだった。

「お前……」
千夜――再不斬は、途中で拾った目の前の少年に目を瞠った。 何しろ、先程までどこかズレた感覚のマイペース少年が、突如猛スピードで敵を切り裂いたのだ。しかも素手(・・)で。
若竹色の瞳は獣の様に鋭く光り、帽子が脱げた藍白色の髪の間からは、純白の獣耳が生えているのが見える。まるで、手負いの獣そのものである。
「皐月」
翡翠と銀のオッドアイの青年が、そんな少年に手を差し伸べる。
すると、憑き物が落ちたように少年は2,3度瞬きをして元に戻った。
「若様っ。お怪我はありませんか?!」
「ないよ。はぐれたから心配していたんだが…無事に辿りつけたみたいだね」
「はいっ。途中でご親切な方々にお会いしたので」
嬉しそうに話している皐月は、さっきまで一緒にいた時と全く変わらない。
「千夜、白夜。驚いてるのか?」
「…それ以外の何に見えるってんだ?」
「僕は随分慣れましたけどね。ほら、あなたの家にも、時々人じゃないのが来ますから」
「…あいつは、『何』だ?」
幾分か驚きが収まった再不斬が、疑問を口にする。白夜――白も、同じような視線を向けた。
「皐月は、半妖だよ」
ぽつり、とナルトは呟いた。
「半分、妖怪ってことですか?」
「そう。妖狼と人の間に生まれた子供。昔ボロボロになってたのをオレが拾って、あいつの護衛の仕事紹介してやったんだ」
そう言って、仲が良さそうにしている主従を見る。皐月はもう帽子を被り、手に付いていた血も綺麗にふき取った後だった。
「それより、任務終わったのか?」
「え、えぇ。その帰りに彼に会ったので…」
「じゃあついでに、こいつらを正門まで送ってやってくれ。残党が残ってても困るしな」
下に倒れ伏した男達を青い炎で流れた血も何もかもを焼きながら、くいと帝と皐月を指した。
「っというか、お前がそこまでしてやる、こいつは一体何者なんだ?」
疑念に駆られた再不斬が、鋭く視線で帝を指した。ナルトは思わず微苦笑を漏らす。
「口の利き方には気をつけろよ、再不斬。こちらにおわすお方は、今は三千院家の人間と名乗っているが、一応火の国の第一王位継承者サマだ」
火叢夕貴(ほむらゆうき)という。私の護衛を助けてくれたそうだね。感謝するよ」
女性なら一発で落とせる、魅惑的な笑み。だが、どこか『王者』としての余裕と気品が感じられる。
「「………お、皇子様だと(ですか)っ?!!」」
一拍おいて、2人の叫びが辺りに木霊した。そんな驚き様に、帝は満足げな表情を浮かべる。
ふと、皐月が申し訳ない顔でナルトに近付いてきた。
「あ、あのっ。陛下、ご迷惑をおかけしましたっ」
「あぁ、気にしてない。むしろ、そう言うべきなのは夕の方だろ」
「私がいつ君に迷惑をかけたと?」
「夕が来てから、ずっと。単純な呪いだっただけマシだったけど。礼は貰うぞ。宝物庫の物一つな」
「……しっかり取るんだね;まぁ、君だからいいけれど」
肩を竦めた帝は、炎が地面を嘗め尽くし終える様を見届ける。煙のない火は段々と小さくなり、血の匂いさえも吹き抜ける風に浚われていった。
その時、ようやく向こうから走って来る、覚えのある集団の気配がした。
「あ、来た。じゃあ頼むな」
言い終えると、角を曲がってカカシたちがやってきた。その中に10班や8班が混じっていることに、驚いた振りをする。
『ナルトっ!!』
「なんだってばよ?皆して。しかも、シカマルとかキバとかいるし」
勢揃いだってばね、と笑うナルトに、やってきた11人は脱力を覚えた。
「あんたねぇ〜…」
「よくこんな複雑な路地を、普通に行けるなぁ」
「おっ、ここって昔一回鬼ごっこに使った場所じゃねえ?」
「…そうだったか?」
「このドベ!急にどっか行くから心配したんだぞっ!」
「そうダヨ!変なことされなかった?!」
意気込んで聞く面々に、ナルトたち5人は微妙な顔を隠せない。更に、帝が戯れるようにナルトに腕を回したので、カカシたちは余計に煽られた。
「変なことって…どんなことでしょう?」
「ってか、サスケにカカシせんせ……それってもしかして、皆して、ずぅっと後を着けてきてたってことだってば?」
『ぎくっっ!!』
わざと言ってやれば、図星ですと顔に書いた全員が、サスケとカカシに小声でバカか、とか余計なこと言うな、とか言っているのが聞こえた。
思わず笑いそうになった口元に手を持っていく。帝の方を見上げると、彼もおかしかったのか、小さく笑いを零していた。
「あら。うずまき、そんな人たち一緒にいたかしら?」
ふと、紅がナルトたちの後ろにいた3人に目を留めた。仮面をつけた2人に、少しばかり警戒しているようだ。帝を迎えに来た護衛だと告げると、安堵のため息をつく。
それを聞いたシカマルはそっとナルトに近付いて帝から離すと、耳打ちで尋ねた。
「…おい。あれは…」
「1人は間違いなくそうだよ。あの2人には門の外まで頼んでる」
「さっきの、物騒な奴らか?」
「さすが、シカ。気付いてたか。そっちはもう片付けた。一応、対残党用だ」
「………なぁ、ナル。聞きたいことが…」
「あ、あのっ。そちらは、へ……じゃなくてっ、あなたのお知り合いですか?」
先程の会話が聞こえたのだろう。他の者を相手にしている時とは口調が違うのを悟った皐月が、意を決してナルトに尋ねた。
「ん、まぁ。これ、オレの相棒で、シカマル。シカ、こっち、護衛の皐月な」
「……妖か?気配が人間じゃねぇ気がするけど」
「いや、皐月は半妖」
「わかるんですか?!人間の子供なのに、凄いんですねぇ」
「…どうも。で、いいのか?アンタの主、あそこで女たちに囲まれてるけど」
「いいんです。女性とのお喋りは楽しいそうですから」
「相変わらず、モテるなぁ」
少し離れた所にいる帝を見れば、うっとりとした視線を向けるサクラやイノ、紅に囲まれ、実に楽しそうである(他の男たちはカカシとサスケが飛び掛ろうとしているのを抑えていたり)。
そんな中、帝はアスマの影に隠れるようにいるヒナタに気が付いて、近付いていった。
「おや。君は確か、日向家のお嬢さんだったね。昔一度会ったことがある。確か……ヒナタ嬢、といったかな」
「は、はいっ。で…じゃなくて、わ、若様、ご機嫌麗しゅう、ご、ございます…」
カチコチに固まって挨拶するヒナタに、後から来た一同が唖然とした。まさか、ヒナタが帝と知り合いだとは、露にも思わなかったのだ。
帝の正体を知っていて普段の数倍緊張している従姉妹を見て、ナルトは苦笑して帝に言う。
「ヒナタは人見知りなんだ。あんま苛めんなってばよ」
「失礼だね。私は女性にいつだって親切だよ。今回は時間がないが、いつかまたちゃんとした形で会おう。ご当主によろしく」
「はい!ち、父に、伝え、て、お、おきます…」
「はいはい。そこまでだってば。観光も終わったことだし、皐月、さっさとこの放蕩若様、持って帰ってほしいってばよ」
突然変わったナルトの口調に慣れない皐月は、戸惑いながらも、はいと返事をした。
「残念だね。もう帰らなきゃいけないなんて。折角こんなに可愛いお嬢さん方が揃っているのに」
「馬鹿言うな。あ、寄り道はなし、だってばよ。仕事しないと、きっと弟サンが怒るってば」
「わかっているよ。綾は一度怒らせると、あれで中々怖いんだ」
肩を竦めて答えた帝は、ナルトに改めて礼を口にした。
「さて、世話になったね。ありがとう」
「口先だけの礼は、いらないってばよ」
「……手厳しいことだ。そんな所だけは綾とよく似ているよ。後日楽しみにしていてくれ」
「おぅ!気をつけてな。綾と爺によろしく」
にっこりと清々しいばかりの笑顔のナルトに苦笑を禁じえない帝だったが、ふと悪戯を思いつき、ナルトに顔を近づけた。

そして、頬にリップ音を立てて軽いキスをした。

『………あ〜〜〜っっ?!!』
「またね、可愛い子猫さん♪」
「……っ、もう来るなっ!!」
周りから悲鳴が上がる中、皐月の手を引いて走り去る笑顔の帝に、ナルトは思いっきり叫んだ。
唯一ラッキーだったのは、このおかげでそれまでの疑念が誰の頭からも抜けてしまったこと、だろう…。

こうして、火の国の第一皇子と半妖の従者のお騒がせ台風コンビは、無事に木の葉から去っていった。


「…結局、あいつは何だったんだ?」
「……さぁ?っていうか、あたしたち、出番これだけ?」
……それは、言わないお約束ということで;




〜あとがき〜

というわけで、閑話はこれでおしまいです。いやぁ、4つで終わってよかったっ。あんまりシカさんとか活躍できてないのが、不満ではありますが;
けど、まだまだ補足事項はあったり…;ある程度は書けたと思うんですが、ちょっとわかんないですよね。
なので、ちょこっと言うと、千夜と白夜は再不斬と白です(お分かりですよね;)。再不斬については武器はそのままなんですが、白については…原作には特になかった気がするんで(あったらゴメンナサイ;)、普通の刃に透明な刃先がついてて長さが一見すれば短いように見える剣がいいかな、と思いました。思いっきり捏造なんで、ご勘弁を。
あと、いらない気もするんですけど、以下今回のオリキャラ2人の詳しい説明、しておきたいと思います。

・三千院 帝 本名:火叢夕貴(ほむらゆうき)、18歳。火の国の第一王位継承者。三千院は亡き母(現王の側室)の旧姓(母は三千院の養子)。
紳士だが大変な女好きで、遊郭によく行く放蕩若様と、世間では噂されている。外に出る時は、身分を隠して母の実家の御曹司で通す。
ふざけているように見えて、実は冷静沈着。頭も大変良い。物事の観察眼は確か。何事にも余裕を持っているので、彼をよく知る人物は、彼を王の器と確信している。ちなみに遊郭に行くのは、信頼できる人物を探したり、国の情勢を把握したりするためでもある。幼い頃から頻繁に狙われていたので、薬系には耐性あり。
伝説の王の末裔であり、約束のことも聞いている。なお、先祖返りのため『神眼』(片方銀色なのが証拠)を持ち、幻術などの術は全く効かず、真実を見通せる(そのため、ナルト=十六夜を見破った)。
兄弟は、綾という16の弟(現王の亡き正妻の子で第2継承者であり、兄と爺以外には猫を50匹ほど被っている。演技派の兄の本性を知っており、尚且つこよなく慕う。将来はちょっと腹黒い、兄の良き参謀が夢。今も父・兄に代わって政務を動かしているのは、この人)が一人いる以外、なし(異母兄弟もなし)。
「黒白街」の長と同立場に立てる、数少ない人物である。お気に入りは、『十六夜(ナルト)』。ただし、一度も手を出したことはない(16歳以下は対象外)。昔、一度だけ木の葉を公式で訪れている。
ナルトとは、友人というより協力者といった複雑な関係。『覇王』の真実を知る身でもあるので、ナルトただ一人が彼を呼び捨てで呼ぶ時がある(彼以外がそうすると当然怒る)。

・ 皐月 半妖の少年。年は、人間年齢で言えば10歳。妖からも人間からも虐められボロボロで行き倒れになっていたところを、ナルトに拾われ、職がないなら護衛に、と帝に預けられた。帝を主人とし、若様と慕う。
根は表裏のない純真な良い子で、ナルトたち神狐一族はもちろん、帝・綾には大変忠誠心が厚い。が、彼らに敵意を持つ者に対しては、かなりキレやすくなる。
身体能力は犬並みだが、方向音痴(迷子にならないのは帝と常に一緒だから)。完全な犬の姿をとることも出来るが、本人はあまりやりたくない。

という感じでしょうか。結構気に入ってる2人(特に帝サマ)なので、今後も時折出すかもしれません。綾さんも出したいしね。
さっ、終わったことだし。お次はいよいよ中忍試験編に入ると思います。あの人とかあの人たちとか、色んな人が動き出しそうなんですが…;
それはともかく。次も読んでくださると、大変嬉しいです。