ざわりと、血が沸騰する感覚。
循環するチャクラによって、傷がありえない速さで塞がる。
抑えきれない力の暴走。昔と現在の映像が重なり、歯止めが利かない。

血のような紅い瞳は、神の証。

今のナルトを支えるのは、『彼』への怒り、のみ。



第3幕・橋上の賭け〜後編〜



何が起こったというのだろうか。壮絶なる怒りの気配に、大気が恐れ、震える。
聞こえるはずのない精霊たちの悲鳴が、辺り一帯に木霊した。
「イノ、行くぞ!!」
「うん。サクラ!ここをお願いっ」
「え、ちょっと、どうしたのよ!イノ、シカマル!」
サクラの静止を振り切って、シカマルとイノは霧の中を走り出した。
向かう先は、禍々しいチャクラの中心――――ナルト、だ。
「一体何があったっていうのよ?」
「こんなに怒ってるのは、イノが間違えてあいつの未読だった禁書燃やしちまった時以来だな」
「いやーっ!思い出させないでよーっ!!あの時、ほんっとうに怖かったんだから!」
シカマルに言われ、思い出したイノは身震いしながら、魔鏡氷晶の前に立つ。
「さて。ぶち破るか」
「どうやって?」
「こいつを使うんだよ」
素早く印を組んで、シカマルは自らの影の中から何かを取り出した。
「めんどくせーが…壊せ、蒼火そうひ
彼の愛刀の1つである、青銀色の刀身が、閃く。儚い音がして、あっけなく氷晶は砕け散った。
割れた中では、気を失ったサスケと倒れる白、そして、背を向け拳を握って静かに立つナルトであった。
「ナル……」
「…シカ、イノ。来てくれて助かった」
こちらを向こうとしないまま言うナルトの口調は、いつもと変わりなかった。さっきまでの禍々しい妖気も治まりつつある。
向こう側に倒れこんでいるのは、仮面の外れた白だ。殴られたらしく、赤く腫れた頬を押さえている。術が簡単に破られたためか、非常に驚いた顔でこちらを見ていた。
一体何があったんだ、と言いかけたシカマルの言葉を、ナルトは遮る。
「イノ、一応あれ見てやってくれ」
「あれって…サスケ君?!」
視線の先に、体中に千本を生やしたサスケを捉えて、イノは大慌てで近寄る。脈を取り呼吸を確かめるが、何も感じ取れなかった。青い顔をしてナルトを振り返るが、イノは声が出ない。
そんな状況を見かねたシカマルが、苦い顔をしてサスケへと近づいていった。
もう一度脈を取り呼吸を確かめ、千本に突かれた場所をよく見る。少しして彼は、ため息をついた。
「イノ……サスケ、死んでないぞ」
「え、うそっ?!だって息してないし脈ないし…」
「お前さ、動揺してんのはわかるけど、仮にも諜報だろ。よーく見てみろ。こいつは生きてるぞ」
一拍おいて、えーっと大声でイノが叫ぶ。
「刺さった場所の効用は、心拍停止、意識昏睡、聴力・視力麻痺…。つまり、仮死状態だ」
「そういうこと。わかった?」
くるりと振り向いて、ナルトは苦笑した。どうやら最初からわかっていたようである。
さて、先程の怒り様が別人のようだったナルトに、白は呆然としていた。そこへナルトが白に告げた。
「さて、今のは、オレに傷をつけてくれた分だ」
「……怒っていらっしゃらないのですか」
「あぁ。怒ってるさ」
天使のように穏やかな微笑を見せた後、ナルトはその態度を激変させた。
「だが、オレが怒ってるのは、お前じゃなくて、このバカだっ!!」
ビシっ、と効果音付きで指差されたのは………仮死状態のサスケ、であった。
「どこの世界の忍に捨て身で他人を庇う奴がいるんだ?!そんなことアカデミーの教科書にも書いてねぇってのっ。ほんっとバカとしか言いようがない!これといいあれといい!それともこいつがバカなんじゃなくてうちはがバカの固まりなのか?!」
立て板に水並に早口で並べ立てる言葉は、止まるということを知らないらしい…。流石のシカマルとイノも唖然とする。
「あ、あの〜…」
「はっ!悪ぃ。怒りの方がつい先行しすぎた」
白の呼び掛けにナルトが我を取り戻す。そして気まずげに咳払いを一つすると、治療術を施して、白に向き合った。
「なぁ、白。お前、木の葉の里の忍にならない?」
そこらでお茶しない?くらい軽い口調で言われ、白は絶句した。後ろでは、ようやく話が進んだことに対して微笑むイノと仏頂面のシカマルが控えている。
「………え、っと」
「最近ウチ、人手不足でさ。狐の手も借りたいくらいなんだけど、それは無理だし、しかも実戦に使える人間ってのもいないしで困ってるんだよね。で、今フリーのお前らに目をつけたわけ」
ちなみにお前らを欲しいと言ったのは、こちらのお嬢さんだ、とイノを指してナルトは言う。道理で彼女が嬉しそうにしているわけだと、白は思った。
「オレとしてはお前の実力を買ってるんだ。あ、もちろんお前と再不斬とセットでな」
「はぁ……あの、僕は構わないので、再不斬さん次第なんですが。けど、僕らは抜け忍ですよ。抜け忍を庇ったりしても大丈夫なんですか?」
「心配はいらない。何せ相手は『オレ』だ。誰も文句は言わな………」
「ナルト。向こうはいいのか?」
突然言い出したシカマルの言葉に、イノも気付いたのか眉を顰める。
「あら。カカシの気配、ヤバくない?」
「あ、ヤバっ。さっき赤のチャクラ押さえ切れなかったから、誤解したかも」
「…あの、どういうことです?」
焦っているように見えて、のんびりとした彼らに、白はおずおずと尋ねると、答えはすぐに返って来た。
曰く、早く決着をつけようとカカシが大技を出しかけている。それによって、再不斬も大怪我を追いかねない、と。
「再不斬さんが危ないっ!!」
「めんどくせーことになったなぁ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?カカシが再不斬殺したら、どうすんのよっ」
「多分、んなことにはなんねーと思うけど」
「はいはい。言い合いはそこまで」
ナルトは手を2回叩いて、2人の口を黙らせる。そうして、白を見据えた。その目は、限りなく透明な気がした。
「とりあえず、行くぞ。大切な人を守るんだろ」
「はいっ!!」
白は嬉しそうな声で返事を返すと、深い霧の中、すぐにナルトたちの後を追いかけてその場を離れた。


 その瞬間、自分がどうなったのか、再不斬にはわからなかった。
戦っている最中、急に横合いから衝撃が来て、吹っ飛ばされた。
気がつけば、目の前では『再不斬』とカカシと戦っている光景が見える。
「………ドッペルゲンガー?」
「あはははっ!いい反応だなっ」
笑い声が聞こえて隣を見れば、途中乱入してきた金色の子供が腹を抱えて大笑いしていた。更にその隣には見たことのある黒髪の子供と……。
「再不斬さん、大丈夫ですかっ?!」
「……白?!」
泣きそうな顔でこちらを覗き込む、綺麗な顔の相棒が目に入り、驚きを隠せない。あちらも対戦中ではなかったのか。
「こっちは話ついたんでね。後はあんただけ」
「木の葉に来ないか、桃地再不斬?」
子供2人の口から出た言葉に、彼は眉を顰める。どういうことだ、と問おうとすると、白が「僕らが欲しいんだそうです」と答えた。
目の前の2人に、視線を戻す。金色の子供は、先程とは打って変わって別人のように堂々としている。……いや、あちらも別の意味で堂々としていたが。
凛とした空気を放つ子供は、ふっと微笑んだ。それだけで、花が咲いたように空気が華やぐ。
「ウチの里、人手不足なんだよね。だから、2人をオレの私兵として、暗部に迎え入れたい。オレたちとしては、成長期に重要な睡眠時間を確保したいわけ」
「それとこれとが、どう関係ある?」
「今ならなんと、衣食住、完全保障付き。給料も出るし、何と指名手配までも取り消しちゃうっ」
子供の軽い言い様に、人の話聞けよ、と再不斬は突っ込みたかった。しかし、衣食住の保障もあって、指名手配が消えるというのは悪くない。
霧隠れを抜けて以来、2人はロクな目にあってばかりだし、何より、最近ガトーの所で用心棒をし始めてからは、待遇がもっと悪かった(しかも、ここ以外で雇ってくれそうな所はなかった)。故に、彼は密かに白との生活を危惧していたのは事実である。
………だが、再不斬は納得がいかなかった。
「テメェみたいな子供の言うことに、従ってやるのは嫌だな」
そう。再不斬の唯一気に入らなかったのは、話からして上司(仮)となるだろう人物が、この小さな子供であったことだ。
はっきり言って、弱い。先日の戦闘でそう感じた再不斬にとって、彼の見たナルトは、実に上司としては不合格過ぎる存在であった。
「ふぅん………だったら、賭けをしよう」
「賭け、だと?」
「そ。オレがここから誰にも見つからず、2人を木の葉まで逃がす」
自信たっぷりと言われた言葉に、再不斬は嘲りを返した。黒髪の子供は何も言わない。
「ほぉ………カカシがいるのにか?」
「あぁ。しかもお前らが今後自由に動けるよう、完璧に死んだことにまでしてやる」
「「……?!」」
「成功すれば、オレの勝ち。とりあえず、2人に木の葉に来てもらう」
「成功しなきゃ、皆殺しにするなり逃げるなり好きにしていい」
悪い話じゃないだろう?と黒髪の子供に言われ、2人は目を合わせた。
あぁ見えて、カカシは上忍の中でも、上位に匹敵する忍だと再不斬は知っていた。それだけに、今この場で何の疑いもなく2人を死んだことにするなど、不可能と言える。
ところが、彼らはそれをやってやろうと言う。
再不斬が白に目線でどうしたい、と問うと、白はお好きなように、と返してきた。
しばらく考えた再不斬が導き出した結論は………
「いいだろう。やってみればいい。だが、できなきゃ俺はお前らを殺す」
「O.K.!!賭け成立っ。後悔するなよな!」
破顔一笑して勢いよく言ったナルトは、深い霧の中、向こうで戦っていた再不斬(もどき)に小さく合図を送る。
その間にシカマルは、2人の側に寄り、目にも留まらぬ速さで印を組み、結界を作り始める。
そして、ナルトは大きく深呼吸をすると、不敵に笑ってみせた。


賭けの始まりだ(ゲーム、スタート)っ!!」







〜あとがき〜
ようやく、完成しましたっ(と言っても、まだあと2つは確実に残ってるわけなんですが;)。
とりあえず、波・第4幕開始編をお送りします。やっと再不斬とナルトが話をした……っ!
そして途中ドッペルゲンガーさんもいっらしゃるんですが、正体は次回明らかに。けど、サスケは大丈夫なのか?
次回はついに、ナルさんの○○が姿を現します!(○の中はお好きなようにお考え下さい・笑)