総督命令が待機から突入に変わり、先行部隊がすぐ後。
警戒体勢をとる敷地内に、一台の車が滑り込んできた。
「おい、ここから先は立ち入り……っ?!」
「こ、これは大変失礼しました!!」
後部座席から顔を見せた人物に、軍人達は驚き、敬礼を返す。
そして常とはまた違った意味で騒がしい学園の大地に、青年は降り立った。
「さぁ。兄弟妹の麗しい再会劇と行こうじゃないか」
白の長衣を翻し、護衛の男たちを従え、青年は建物内へと踏み込んだ。






「義理とはいえ、『姉』を呼び捨てにするとは、いい度胸だな。ルルーシュ」
突然現れた第3皇女に、ルルーシュは体を硬直させた。
気付いたスザクが、すかさず彼の姿を遮るように彼女の前へ出た。
「コーネリア様!彼は、違いますっ。ただの一般人です!」
「下がれ、柩木准尉。私はお前と話したいわけではない。そちらのお嬢さんもだ」
コーネリアは、スザクの隣で構えるカレンを一瞥しただけで止めた。
横合いから慌てたミレイが、リヴァルたちの制止の声にも構わず、彼女の前へ進み出てきた。
「殿下。ミレイ・アッシュフォードと申します。私からも、彼は学園の一般生徒であり、お探しの皇子殿下ではないと保障いたします」
「フン。アッシュフォードの娘か。お前達の保障など信用できん。何せ、我らの愛しい弟達を奪った張本人だからな」
ミレイは思わず唇を噛み締める。どうやら、誤魔化せそうにない。
『姉』『弟』の単語に、何も知らない生徒達は、どよめいた。
コーネリアの姿がここにあるだけでも驚きなのに、彼女はルルーシュと姉弟であると言ったのだ。
そんな時。
コーネリアの後ろからピンク色の髪の少女が、ルルーシュ目掛け勢い良く抱きついてきた。
「心配しなくても、お姉様は別に獲って食ったりしませんわ!!」
顔を見知った少女に、ルルーシュとスザクが彼女の名前を叫んだ。
「「ユフィっ?!」」
「お会いしたかったですわっ。私のルルーシュお兄様!」
首に回した腕に力を込めて、ユーフェミアはまるで恋人へするような熱い抱擁をする。
「えぇっと…ユフィ…何故ここに?」
「フフっ。この写真が、私とお姉様をここへ導いたのですわ!」
懐から出したのは、雑誌から切り抜かれたらしい、一枚の写真。
よく見れば、これは去年の文化祭の様子で、ルルーシュがたこ焼きを頬張る姿が鮮明に映されている(ちなみにそのフィルム原版のコピーは、相当高値で売れたと後日ミレイ会長が告白)。
勝ち誇った顔をするユーフェミアに、こんなものでバレたのか、と思うと何だか複雑な気分だ。
その様子に不快を表したのは、スザクとカレンの方である。
「(ちょっと、柩木スザク!なにあのべったり!!アンタ知り合いなら、あの皇女サマ引き剥がしなさいよっ)」
「(言われなくてもわかってるよ。僕の(←ここ重要)ルルだからね。)申し訳ないですが、彼から離れていただけませんか?ユーフェミア皇女殿下」
「あら、スザクもいらっしゃったのですね」
最初っからいたよっ、という言葉は無理矢理飲み込んで、ユーフェミアのそっけない挨拶に、スザクは含みある笑いを返す。対するユーフェミアも、負けじとスザク…とその後ろで睨むカレンに、敵意ある神々しい微笑み(ファンからはエンジェルスマイルと崇められている)を見せた。
抱きつかれたままのルルーシュといえば、写真のこととイレギュラーの出現に、どこか理解できていない様子で呆然としていた。
危害を加えるつもりはない、とは思う。だが、王宮に連れ戻されるのは必死だ。
せめてナナリーだけ逃がせないか、とも考えるが、一般生徒や軍人たちのいるこの部屋からは逃げられないだろう。
スザクやカレンは協力してくれるだろうが、如何せん数が多すぎる。
「お兄様。ナナリーは大丈夫ですよ」
隣で優しい声と、手を握る暖かい感触がした。
「……ナナリー…」
「ナナリーっ!生きていたんですね!!」
涙ぐむユーフェミアが、ルルーシュから離れてナナリーをそっと抱きしめる。
彼女は再会した義姉に抱擁を返し、顔はルルーシュの方を向けた。
「ユフィお姉様、私も会えて嬉しいですっ。…お兄様。例え連れ戻されたとしても、お兄様がいる場所なら、ナナリーはどこへでも一緒に行きます」
心優しい妹の言葉に、感極まったルルーシュは手を取り優しく握り締めた。
コーネリアも常のような厳しい表情ではなく、慈愛に満ちた微笑を浮かべて、ルルーシュの肩を叩く。
傍から見れば、まるで映画の1シーンか1枚の名画のような、まさに麗しき姉妹愛――再会の場面だろう。
ところが、そこで話が終わるはずがなかった。

「う……うそだ……彼が、皇族だと……?!」

怯えの混じった震える声に、存在を忘れていたルルーシュたちは、男を放っていたことを思い出した。
「あぁ…すっかり忘れいたな」
「影が薄いからじゃないですか?お姉様」
「あれ?犯人の方、まだいらっしゃったんですね」
皇女3人から、酷い言われようであるが、男はショックのあまり聞こえていないらしい。
既にコーネリアの部下によって、手錠で両手を縛られ、銃を突きつけられて拘束されている。
抵抗できない男に、ルルーシュは冷ややかな瞳を向けた。
「あぁ。ランペルージは偽名だ。本当の名を、聞かせてやろうか。私の名は…ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
「な、何年も前に亡くなったっ、第11皇子……っ?!」
「その通りだ。知らなかったとは言わせないぞ」
何しろ、義兄シュナイゼルの名を出したくらいだからな、と嫣然と微笑んだ。
しかし、男の反応は予想していたものとは全く違っていた。
「し、知らなかったんだ!まさか、死んだ皇子が、我々の目的としていた少年だった、なんて」
「襲撃者の戯言など、信じられるか」
「本当ですっ、ルルーシュ殿下!あ、あなた様と知っていたら、初めから狙うわけがないっ!我々は、何しろっ、殿下母子のファンなんですから!!」
「寄るな触るな気色悪い」
「ヒドいっ。で、でも、なんと麗しいお姿かっ。まさに女神!事件を起こした甲斐があったというものだ!!」
恍惚の表情で目に涙さえ浮かべて、ルルーシュに迫ってくる。
それをさりげなく引き剥がして、スザクとカレンは主の顔を見た。
「ねぇ。どう見たって、本当に知らないって感じだけど」
「嘘を吐いてる風には見えないね。どういうことだろ?ルルーシュ」
「オレに聞くな。だが、シュナイゼルの名を出してオレを標的にしたんだ。恐らく真の目的はアイツで、オレは切り札にしようとした、と考えるべきだろうな」
狙われた理由を、犯人一味とのやり取りから冷静に解析した。
相変わらずな頭の回転の良さに、コーネリアは内心感心し、そして男の方へ目をやった。
「おい。ルルーシュを狙った理由は、何だ?」
目を合わすだけで射抜き氷にされそうな視線の前に、リーダー格の男は彼女の殺気を感じて震え上がった。
「そ、それは…その…」
「今すぐ白状せぬんと、踏み潰すぞ」
「実行してから言わないでください。義姉上」
男の顔を足蹴にするコーネリアに、ルルーシュは嘆息する。
言われた彼女の方はというと、平然としたものだ。
「義弟を狙ったんだ。当然というものだろう」
「その前に、ナナリーを人質にしたんですがね」
「罪状一つ追加、だな」
足をずらし、ぎゅむっ、と先のとがったピンヒールに急所近くを刺激され、男は悲鳴を上げた。
「い、言います!だから、や、やめ……っ」
必死の懇願に、彼女は足を下ろして先を促す。
男は、恐る恐る理由を口にした。

「つまり、か、彼が、第2皇子の愛人だって噂を聞いたからです!!」

―――しばし、沈黙。
「る、ルルーシュが…?」
「義兄上の…」
「シュナイゼル、さま、の…」
「あ、い……あいじ…」
「愛人…なんですか?お兄様」
最後にナナリーから回ってきた問いに、ルルーシュは我に返ると、千切れそうなくらい勢いよく首を横に振った。
「なっ、ち、違うっ。全力で否定する!大体っ、日本に来てから一度も会ってないやつと、どこをどうすればっ、そんな噂が立つんだ?!」
「そんなもの、私がわざと流したからに決まっているじゃないか」
場違いなくらい爽やかな青年の声が、扉の方から聞こえてきた。

「やぁ。コニィ、ユフィ。そして、我が最愛なる義弟ルルーシュ」

ばっと振り向いた先には、本国にいるはずの第2皇子・シュナイゼルの姿。
予想もしていなかった存在の登場に、その場にいた全員が唖然とした。
そうならなかったのは、ナナリー1人だけである。
「そのお声は、もしかしてシュナイゼルお兄様?」
「そうだよ、ナナリー。君も少し見ない間に、随分可愛くなったね」
「何来て早々和んでんですかっていうかどさくさに紛れてオレの可愛い妹に触らないでください」
「相変わらず、子猫みたいで可愛いね。ルルーシュ」
シュナイゼルからナナリーを引き剥がして威嚇するルルーシュに、彼はふわりと優しく笑った。
そして笑いを納めると、義弟を上から下まで一通り見回し、鮮やかに微笑した。
「ところで、ルルーシュ。随分と可愛らしい格好をしているね」
君はいつから女性になったのかな?と。
そう指摘されて、ルルーシュはようやく自分の今の格好を思い出した。
ひらひらの女物のドレスに、長い髪。うっすらと化粧映えしたその姿は、まさに美少女(自覚なし)。
やけに楽しそうな義兄に、そういえばこいつは昔よくオレを着せ替え人形にして遊んでいたっけ、と屈辱的な思い出が蘇ってくる。
その格好で『兄上、大好きv』と出迎えてくれる趣向なら、もちろん喜んで受けるよ?
貴様の腐った妄想など、本体と一緒に錘をつけてマリアナ海溝に沈んでしまえ
「その言い草は酷くないかい?仮にも私は君の兄だよ。もっと敬って然るべきと思うんだけどね」
「敬われるような行動を一度でもしたことがあるか自分の胸に手を当てて考えてみやがれ変態馬鹿」
シュナイゼルとの掛け合いの中、普段のルルーシュからは絶対出てこない毒舌の数々が飛び出てくる。
ルルーシュ・ランペルージしか知らない生徒たちは、彼の変貌に呆然としていた。
「か、会長〜。ルルってこんなに口悪かったっけ?」
「ん〜、どうかしらぁ…ナナリー様?」
「昔からああでしたよ。お兄様たち、すっごく楽しそうです!」
「た、楽しんでるの…?」
「っていうか、もう何がなんだか、ついてけねぇよ…」
多少耐性があるとはいえ、ナナリー以外の生徒会メンバーも既に混乱している。
平気なのは、ナナリー以外に、リ姉妹とスザク、カレンの3人だけだ。
「…相変わらず、ルルーシュ苛めがお好きなようだな」
「ズルイですわ。お兄様だけルルを独り占めなんて!」
「へぇ。ルルーシュの口の悪さって、あの第2皇子が原因だったのね」
「からかわれてるルルーシュも、可愛いよねぇ」
「…そういう態度だから、いつもアンタだけ扱い悪いんじゃない」
「だって、ルルを弄るのって楽しいし。あ、でも殿下ズルイよね。僕のルルだってのに」
「(黒いものが滲み出てる…)…いつものが、妥当な扱いっての、よーくわかるわ」
やっぱりルルーシュを守れるのは私しかいない、と決意新たに、チャンスがあれば一度谷底に突き落としてやろうと(やるだけ無駄とわかっているけど)考えるカレンさん。
思考がどこか似ているのは、さすが主従と言うべきか。
それはさておき。
噂を流したのがシュナイゼル本人だとすれば、どこで死んだ筈の義弟の名前や通う学園名までわかったのだろう。
ふと湧いた疑問点に、コーネリアが首を傾げた。
「しかし、義兄上。何故ルルーシュの偽名をご存知だったので?」
「あぁ。それなら簡単だよ。私は、この子達が生きていることを知っていたからね」

再び、問題発言。

『え、えぇぇっっっ?!』
ふるふると拳を握って体を震わせるルルーシュが、低い声で原因に尋ねる。
「元を正せば、つまり、義兄上のせい、ってことになりますよねぇ?」
ルルーシュの言葉に、頷く一同。しかし、当の本人は首を振った。
「それは違う。私は噂を流しただけで、けしかけてはいない」
「オレを標的にしろ、って言ってるようなものじゃないか!」
「だって最近ヒマでねぇ。帰ってきた(クロヴィス)で遊ぶのも飽きたし。そこで、日本で退屈に暮らしてるだろう可愛いルルーシュのことを思い出したんだが、いきなり行っては、頭のいいお前のことだから逃げそうだし、(私も)楽しくないだろう。 どうしたらいいか、と考えていたところに、私を狙うテロ集団の話が耳に入ってきてね。ルルーシュが私の弱み、みたいな噂を彼らだけに流しておけば、自動的にお前に会う口実がいつかはできるだろうと思って」
思ってたより早かったんで日程の調整が難しかったけど、とにこり笑って言うシュナイゼル。
さすがは皇子。暇潰しで考えることのレベルが凡人とちがって、大きい。
だが、聞き終えたとき、ブチっ、とルルーシュの繊細な思考が…切れた。
それを見て取ったスザクとカレンが、黙って己の獲物を構える。
顔を上げたルルーシュは、最上の笑顔を浮かべて、シュナイゼルに氷の視線を突き刺した。
「覚悟はいいか?シュナイゼル」
「その姿で、愛らしく『お兄さまv』と呼んでくれる心の準備ならば♪」
………っ、一度、地獄の三丁目まで緑髪の死神に案内してもらえ!!
………聖女から鬼へと変貌した殿下の御降臨と同時に、第2次戦闘、開始。
終了時間と結果は…神のみぞ、知る;


―――その頃、緑髪の死神(ルルーシュ談)はというと。
「モグモグ…これからが、楽しみだな」
恐らく王宮に帰るか第3皇女の元に留まるかするであろう少年の未来を想い、苦笑する。
そんな彼女は、義兄と大喧嘩をやらかしている相棒の部屋で、大好きなピザを頬ばっていた。
「ところで、私の出番はこれだけか?」
うっ……はい…すみません;次回には必ず…っ。っていうか、なぜ会話が成立…?
「…いいだろう。その言葉、覚えておこう」
期待しているぞ、と言い終えると、彼女はまたピザに夢中になった…。


この事件以降、生きていた息子達に本国王宮で皇帝が号泣したとか、結局日本に留まった第11皇子を巡って、兄達と彼の騎士の間で激しい争奪戦が繰り広げられ、その隣では緑髪の少女と赤髪の騎士と彼の姉妹達が当人とお茶をするのが日常になったとか。

それらはまた、別のお話。






〜あとがき〜

試験的に書いてみましたコードギアス。ようやく完成。R2が始まった勢いってやつですね;
方向的にはスザルルっぽいルル総受ってとこでしょうか。
いつぞやに見たピクチャードラマの女装姿にノックダウンされた結果です(笑)
それにしても…短編のくせに長い…。