*First of all…
→・この話は捏造です。時間系列とかは無視してます。そしてルル様皇族バレです。
 ・スザクと黒の騎士団はルル=ゼロだと知ってます。でもって、カレンとスザクはルルの騎士になってます。
 ・クロヴィスさんは死んでません…が、ギアスによってルルと会ったことを忘れてます。
 ・言ってしまえば、多分どれも知らなくても読める設定デス…;

ご了承頂きましたら、下へどうぞ。




















 衝撃は、忘れたある日に突然やってくる。

「こ、これは…っ?!」
ピンク色の髪の少女の、震える両手から、一冊の雑誌が滑り落ちた。


先日エリア11の総督に就任した第2皇女コーネリア・リ・ブリタニアは、多忙を極めていた。
何しろ、国内に戻された義弟の政治手腕はお世辞にも良いとは言えなく、その穴埋めや修正処理が多く残っていた。
執務室の机には、半分ほどは彼女の総督就任への祝いの書状とはいえ、山積みになった書類が乗っている。
いい加減うんざりしてきたので、コーネリアは一息いれようと手を止め、大きく伸びをした。
そこへ、バタバタと走る足音が耳に入ってきて、
「コーネリアお姉様っ!!」
バンっ、と勢い良く扉が開くと同時に、少女が部屋へ飛び込んできた。
息を切らせて入ってきた妹…ユーフェミアに、いつもは甘いコーネリアも頭を痛めた。
「…ユフィ。廊下を走るとははしたない。あと、ドアはノックしてから入れと言っているだろう」
「あ、ご、ごめんなさいっ。…じゃなくて!そんなことをおっしゃってる場合じゃないんですの!!」
これを見て下さいっ、とユーフェミアは手に持っていた雑誌を乱暴に広げる。
それが書類の上だったため、コーネリアは眉を顰めたが、それも次第に驚愕へと表情を変えていった。
ユーフェミアが持ってきたのは、エリア11の、しかもこの近辺にある学校のデータを集めたもの。ここで出会った少年に影響されて、自分も学校に行きたいと思ったことから読んでいた内の1冊だ。
だが、問題はその学校ではなく、掲載されていた一枚の写真にあった。撮影された日付はごく最近のもの。
「…この、写真は…」
「わかりません。だけど、もし本当なら……っ」
ユーフェミアの泣きそうな程悲壮な声が、コーネリアの耳に届いた。



黒の姫と白の騎士



 アッシュフォード学園は、お祭好きで有名である。
本日もまた、例によって現会長であるミレイの提案から、ちょっとした祭…いや、パーティーが開かれていた。
会場となった多目的ホールは派手に飾りつけされ、用意されたテーブルには、軽い料理や飲み物の数々。
そんな部屋の片隅に、少女がひっそりと立っていた。
長い黒髪は絹のように艶やかで、スノーホワイトのレースをあしらった菫色のドレスによく映える。
袖から覗く手首は、ほっそりとしていて白く、掴むだけで折れてしまいそうだ。
そして少女を印象づけるのは、白皙の美貌に嵌め込まれた、ゆるぎない意志を秘める、極上の紫水晶の瞳。
だが、今は感情の読めない表情で立っており、傍から見れば精巧なビスクドールのようで、少女はまさに壁の華状態だった。
「喉が渇きませんか?我が姫」
声と共に視界に差し出されたグラス。それを持つ手を追って少女が視線を上げる。
明るい茶色のくせ毛の、人懐っこい笑みを浮かべた少年が立っていた。
少年の翡翠色の瞳と、少女の菫色の瞳がかち合う。
少女は口元に淡い笑みを浮かべると、ゆっくりと手を伸ばし……少年の頬を引っ張った。
「っい、いひゃいよっ、るるーしゅ」
「うるさい。スザクの分際で」
「ほ、ほへっへひほくはひ?」
あ、痛くて本当に涙が出てきた。スザクの訴えに、仕方ないとばかりに少女の格好をしたルルーシュは手を離した。
ちなみに、彼…ルルーシュ・ランペルージは、間違っても「女」ではない。
普段着ている学生服は男物だし、戸籍にも何度確かめようと「男」と書かれている。

例え、女装がどれ程似合っていて、その辺の女より圧倒的に美少女であろうとも。

そもそも今回の事態の原因は、猫祭に触発され、まだだったスザクとカレンの生徒会入り歓迎パーティーをしたいという話から始まった。
そして、ついでなら何か祭がしたいとミレイが言い出し、そういえば生徒からの投書に『以前やった男女逆転祭をもう一度』というものが殺到した話を、リヴァルやシャーリーが面白がってスザクたちに話したのだ。
しかし話はいつの間にやら雑談に代わっており、その中でリヴァルが、先日副総督に就任した第3皇女が実は密かに自分の騎士を探している、という噂を披露したのが、きっかけ…だったのだろう。
『じゃあ、男女逆転祭ver.2にしましょう!!』
『『『はぁっ?!』』』
ミレイが突然言い出したことに、誰もが驚きを隠せなかった。
内容は、朝から前回同様男女逆転の容姿をすることが必須だが、放課後のパーティーは参加自由である。
たが、それだけでは面白くない。何か特色が欲しいところ。
そこで彼女が考えたのが、『騎士と姫』ごっこ、であった。
希望者のみ(全員は多分無理)、男は姫に、女は騎士に紛争し、互いに相手を探すというものである。
ただし、1人だけ、先に騎士を決められた生徒がいた。
それがご存知、生徒会のアイドルともいうべきルルーシュである。
彼の人気は男女問わず、高い…いや、高すぎた。
前回の女装姿のせいで、彼にとっては口で言えない悲惨な目に遭いかけたことも、何度あったことか。
それに一計を案じたミレイが、今度は先に騎士をつければ問題ない、としたのだ。
では誰がやるか。その相手は考えるまでもなく、柩木スザク1人しかいなかった(実際は、シャーリーや…何故かカレンの立候補もあったが、本人から危ないと止められた)。
軍人である彼ならば運動神経・体力共に高いし、その上ルルーシュの親友でもある。
スザク本人もそのことを快く了承し(ルルーシュは不服だったが、彼の意見は無視された・笑)、準備はとんとんと進んで当日となった。
予想通り、ルルーシュの女装は絶大な人気を誇った。
一挙一足全てが優雅で気品があり、かつドレス姿に卒倒した人間が何人かいたという報告も入ってくるほどで、それを聞いた生徒会メンバーは苦笑していた。
ところが、前回と違って、誰も近付くことができなかった。
原因は……スザクが怖かったから、である。
イレブンだとか軍人だからとか、そういうのを抜きにして。
ルルーシュの魅力に惹かれて、半径5m以内に近付くだけで、射抜くような視線が飛んでくる。
こっそり近付こうものなら、穴に落ちたり、どこからか刃物が飛んできたりする。
ちなみに、ナナリーに近付こうとした輩も同じような目にあっていたりする。
そのため、見ていることしかできず、おかげでルルーシュは少しだけ快適な生活を送れた、と後日語っている。


…それはさておき。
ルルーシュはスザクから受け取ったグラスに口をつけて、一息ついた。
「……疲れた」
「まだ始まって少ししか経ってないけど?」
「パーティーは、だろ。祭自体は朝からだったんだぞ。おまけに刺さる視線が鬱陶しい」
柳眉を顰めるルルーシュに労わりの言葉をかけ、スザクはちらっと周りを見渡した。
ざっと見ただけでも、15人はいる。明らさまに見てはいないが、気付かれないとでも思っているのだろうか。
(自覚ないとはいえ、これだけ綺麗なんだから見るなって方が無理だろうけど……害虫駆除は早めに限るよね)
翡翠色の瞳を細めて、少しだけ殺気を向けてやる。すると、一瞬にして1つ以外の視線がなくなった。
もっとも、残る1つはスザクへの牽制を込めた、ある意味同志である彼女からのものであるのだが。
いきなりなくなった視線の数々と満足げなスザクを見比べて、ルルーシュは不思議な顔をする。
「スザク?」
「なんでもないよ♪」
首を傾げたルルーシュの可愛さに内心、あぁもったいないっ、と思うスザク(彼を良く知るナナリー曰く、スザクのルルーシュに対する愛の許容量は猫の額もない、のだそうだ;)。
一方のルルーシュは、人混みの向こうで男装したナナリーが、付き添っている騎士姿のカレン(偶にこちらを伺っている)とミレイ(ナナリーの騎士についてはルルーシュ指名で2人)、リヴァルやシャーリーらと楽しそうに話しているのをみて、嬉しそうに頬を綻ばせていた。
振り仰げば、スザクがルルーシュに釣られて上機嫌な笑みを浮かべている。
黒の騎士団のこと、『ゼロ』のこと、考えることは山ほどあるが……たまには、こんな出来事があってもいいかもしれない。
ほのぼのとした時間が、そのまま過ぎていく。

…かのように思えた、その瞬間。

ダンっ、と乱暴な音がして、すぐに大勢の足音と叫び声が会場に響き渡った。
「ルルーシュ、僕の後ろに」
スザクに背中で庇われ、だが横目でナナリーの無事を確認した後、ルルーシュは無言で頷く。状況がわからねば動きようがないが、ここからでは扉は人だかりで見えない。
「ちょっとっ。一体何事ですか!」
ミレイが声高く前へ進み出た。生徒会長として、生徒を守ろうという意識がはっきりとわかる。
ようやく出来た隙間から、彼女の前に立つ、迷彩服にヘルメットをした強盗のような一団が見えた。
「我々は、警察である!この学園に、ある重要人が匿われていることは既に承知している!今すぐ出したまえ!」
「重要人とは何ですかっ。ここにいるのは、全員学園の生徒たちです!怪しい人間なんていません!大体、いきなり乗り込んでくるなんて、そっちこそあやし…っ?!」
しかし、これ以上は冷たい刃のせいで、言うことができなかった。
「それ以上言うとは、お前達も反逆者と見なし、容赦はしないぞ!」
「く……っ!!」
「まぁ待て。我らは探している人物さえ出してもらえば、それでいい。もちろん、この学園の生徒だ」
リーダー格の男は、宥めるようにミレイに話しかける。彼女は、誰、と声を絞り出すように尋ねた。
「ルルーシュ。ルルーシュ・ランペルージという少年だ」
出された名前に、ざわりと驚きの声があがった。いくらかの視線がこちらへ向かう。
「そうか。いるのだな」
「ち、ちょっと待ちなさいよ!確かにそんな名前の生徒がいたはずだけど、この会場にはいないわっ」
「そうよ!る、ルルは、今日は、欠席だったもの!」
「会長、シャーリー!危ないって!!」
必死の様子の彼女たち2人に、リヴァルが制止の声をあげる。 彼らの装いに男たちは少し驚き(それはそうだ。誰だって女装した男が現れたらひくだろう)またすぐに冷静さを取り戻した。
「嘘をついても無駄だ。調べはついている。ここにいるんだろう!出て来い!!」
「だからいないって言ってるじゃないっ!!」
男たちとミレイが応酬するなか、そこへそっと近付いたものがいた。
「リヴァルさん?あの、今どうなっているんですか?」
困惑した、愛らしい声…ナナリーだった。側にいた3人が心配で来たのだが、それが仇となってしまった。
男の1人が動き、ナナリーの車椅子を引き寄せると、あろうことか彼女の首に刃物を突きつけたのだ。
『ナナちゃん(ナナリー)っ!!』
「オラっ、出て来い!来ないとこの娘の首を掻っ切るぞ!!」
ナナリーを人質にした瞬間、スザクは後ろにいたルルーシュがキレた音を聞いた。
見てろ。這い蹲らせて地べたを舐めさせてやる
地獄から響くような、低い声。これでナナリーにかすり傷1つつけた日には、血みどろの惨劇になるかもしれない。もっとも、そうするのは、主にスザクだろうが。
仕方ないなぁとため息をつくと、後ろに向かって小声で話しかける。
「ルル…どうする?」
「決まっている。スザク、行くぞ」
「Yes, your Highness!」
怖いくらいに鮮やかな笑みを浮かべた主が、歩きだしたことに避ける生徒たちの間を颯爽と抜ける。
スザクはその後を追いながら、敵に向かってご愁傷様、と思わず呟いた。