その日大変めずらしくすっきりとした様子で、ルルーシュは起きた。
常であれば最低でも20分はぼーっとしたままなのだが、ひさしぶりに目覚めがいい。
手早く身支度を整え、鏡台の前に立つ。腰まである鮮やかな黒髪を丁寧に溶かし、きつく結いあげると、黒い短髪のウィッグを着けた。本当なら男装のために切るべきなのだが、ナナリーたちから「もう切らないでくれ」と泣きつかれてしまったために、以来、手入れ以外では一度も鋏を入れていない。
短かくも綺麗な黒髪に黒の男子学生服を纏い、アッシュフォード学園の副生徒会長である『ルルーシュ・ランぺルージ』の完成だ。
用意が完璧に整ったのを確認して、それから机の上に立てた写真立てに手を伸ばした。
ガラスの向こうに収められた一枚の写真に写っているのは、幼いころのルルーシュたち姉妹と…ブリタニア人ではない、1人の男。
愛おしげにガラスの上から写真を撫ぜ、ルルーシュはそれに静かに、優しく口づけた。
どうか生きていますように。生きて、幸せに暮してくれていますように。
届かないとわかっていても、そんな祈りをこめて。
ルルーシュの毎朝の日課と言ってもいいそれは、どこか神聖で、侵しがたい雰囲気であった。
「………きょぉ、しろう、さん」
切なげな目で、甘い声で、そっと宝物である大切な名前を口にする。
「まるで恋する乙女、だな」
自分以外の声が部屋に響き、咄嗟に持っていた写真立てを背後へ隠す。そして顔を真っ赤に染めて、ルルーシュは闖入者に声をかけた。
「…っ。覗き見とは、失礼だぞ」
「ノックは一応したんだが、聞こえなかったんだろう」
それよりも遅れるぞ、とC.C.が言うと、ルルーシュは持っていた写真立てを慌てて机の引出しに入れ、挨拶もそこそこに部屋を出て行った。
走り去る後姿を見送って、入れ替わりに部屋へと入る。引出しに放り込まれた写真立てに写る者を見て、C.C.は顔を綻ばせた。
「ふふっ。ちょっと見ない間に、あれも立派な女になったらしい」
嬉しそうに笑い声をあげ、開けっ放しの窓から空を見上げる。
雲一つない、きれいな青空。さわやかな風が入りこみ、新緑の髪を揺らしていく。
しかし、彼女はそれを見た途端顔をしかめて、低く呟いた。
「一嵐、来そうだな。マリアンヌ」



奇跡の再会



 ミレイがそのニュースを知ったのは、その日の朝、生徒会室でのことだった。
生徒会長である彼女は、少しだけ朝早く来て仕事をするのが日課だ。急ぎの分や今日のスケジュールを確認するため。それから、並行して世界情勢やめぼしいニュースがないか、調べる。朝が大の苦手な己の主に、どんな小さな危険も近づいてこないよう見張るために。最近では、ゼロの参謀『ミナ』として黒の騎士団に入ったので、むしろ生徒会よりもそちらの方に余念がない有様だ。
その日も同じように、端末を操作し情報の海へと潜っていた。そこで見つけてしまったのだ。
すなわち、彼女の主にとっては、絶対に無視できないニュースを。
「な、なによこれっ?!」
ミレイは机を叩いて、勢いよく立ちあがった。拍子でイスが大きな音を立てて床に転がり、さっとそれを直して周りを見渡して安堵の息をついた。
いつもならルルーシュ待ちの間に仕事を手伝うカレンがいるが、本日は折しも休み。病気でということになっているが、先日のナリタ事変後にメンテナンスをした際、愛機・紅蓮の一部に消耗が見られたので、そのパーツ交換のため黒の騎士団の方に詰めているのだ。
他の生徒会メンバーは、部活だったりバイト疲れで教室に行くまでで精一杯だったりでここにはいない。たまに来ることもあるが、朝はそれぞれ忙しいからあまり来ないのだ。
なので、生徒会室に彼女1人しかいなかったのは、本当によかったとも言えた。でなければ、彼女の態度に驚いた仲間達が、このニュースを目にしていた可能性もあったからだ。
見られてまずいものではないが、もしこれが主の目に留まれば間違いなく取り乱すだろうし、そこから自分たちの正体がバレれば、むこうもこちらも危険なのは確かだ。
それはともかくとして。ミレイは今そんなことを悠長に考えている暇はないと思いなおした。
ミレイとは別に情報を把握しているルルーシュの耳にも、いずれこのニュースは入る。できれば彼女の耳に入る前に片づけたいものだが、恐らくキョウトからこの事件に関わる依頼が、今日中にでも黒の騎士団に…ゼロに持ち込まれる可能性が極めて高い。
どちらにしても、そうなればルルーシュがどうするか、ミレイには既にわかっていた。
ルルーシュが生徒会室に来るまで、あと15分ほど。それまでに集められるだけでも情報を集めよう、と生徒会の書類を脇によけ、ミレイは端末に改めて向き合った。


 当のルルーシュがそのニュースを知ったのは、休み時間、しかも教室の中でだった。
「物騒って言えばさ、この間極秘でテロリスト捕まえたらしいんだけど、死刑が決まったんだって」
「何でンなこと…って、お前んとこの兄貴軍人だっけ。それって情報漏洩になんねぇの?」
「さぁ?誰とか知んねえし、直前には報道するとか言ってたからいいんじゃないか。でもさぁ今時死刑なんて、よっぽど凶悪なやつなんだろうなぁ」
リヴァルによって眠りから覚めた彼女の耳に、ふとクラスメイトたちのそんな会話が入ったのだ。
極秘に捕まえた上、その誰かはブリタニアが死刑にしたいくらいの危険な重要人。つまり、レジスタンスにとって余程の影響力がある人物になる。
少し興味がわいたルルーシュは、その人物を調べてみることにした。
「ルルーシュ?次、移動だってよ。起きてっかぁ?」
「………起きてる」
寝ぼけていると思って声をかけたリヴァルをそっけなくあしらったルルーシュは、騎士団用の端末を操作し、慣れた手つきで軍のネットワークに侵入した。以前侵入したときに少し細工したので、存在も痕跡も残さず簡単に入ることができる。
起きたと同時に自分を放って何か作業し始めた悪友にやや不満ではあったが、リヴァルはそれを邪魔することも何をしているか見ることもしなかった。本当に自分が必要な時は呼んでくれることを知っているからだ。
そして、ややあってルルーシュは手の動きを止めた。だが、彼女の表情は硬く強張っており、顔色は白紙を通り越して青ざめていた。
「ルルー…シュ?おい、どうした?」
様子のおかしいルルーシュに、さすがのリヴァルも本気で心配し始めた。
男にしても女にしても細い体が、血の気の引いた唇が、小刻みに震えている。ロイヤルブルーの瞳も、今は動揺に大きく揺れていた。
かき抱くように自分の体を力強く抱きしめ、しばらくして落ち着いたのか手を離し、ルルーシュは緩慢な動作で席から立ち上がった。
心配するリヴァルからは、俯いた彼女の顔は見えない。しかしそっと端末に手を伸ばして、電源を切り蓋を閉じる。
それから、ふらりと側の窓に寄りかかったかと思うと、握りしめた左手を勢いよく、横へまっすぐに突き出した。
ガシャン、と大きな音を立てて、教室の窓が割れた。
移動の直前で残っていたクラスメイトたちの目が、何事かと驚いて、ルルーシュと割った窓へと一心に注がれる。隣にいたリヴァルも、さすがに驚きで唖然としたが、すぐに近寄り怪我をしていないか確認のためにルルーシュの腕を取ろうとした。
が、それはできなかった。触れようとした手は、何かに阻まれるように、動きを止めた。
その場にいた全員が、急に教室内の気温が下がったような気がした。背筋に冷水を浴びせられたような感覚が、走る。
そして、顔をゆるりとあげたルルーシュの目を直接見たリヴァルは、途端に恐怖を感じた。
怒りと憎悪に満ちた、氷のような冷たい瞳。
「………ゆるさ、ない…っ」
地獄の底から絞り出したような、抑えきれない怒りを滲ませた低い声。幸いにもそれが聞こえたのは側にいたリヴァルだけであったが、殺気立ったルルーシュのいるこの場に、もう耐えられない。誰もがそう思った時だった。
「一体何の騒ぎかし……ルルーシュ!!」
先程の窓が割れた音を聞きつけたミレイが、教室内に飛び込んできた。彼女は直前で主の殺気に一瞬躊躇ったものの、机の上の端末と、窓ガラスを破ったと思しき左手が血塗れになっているのを見て、慌てて駆け寄った。
左腕をミレイに引かれ、これ以上血が落ちないようにハンカチを受け皿にし、肩くらいの高さまで持ち上げさせる。それで我に返ったのか、ルルーシュの殺気がすぅっと引いた。
「大変!怪我してるじゃないっ。顔色もよくないし、貧血も起してるみたいね。保健室行って手当しましょう!」
他の生徒たちにも言い聞かせるように大きな声で言うと、ミレイはささっとルルーシュの荷物を纏めて鞄を持ち、怪我をしたのとは反対の右手を握った。
「ごめんね、リヴァル。ルルちゃん、どうやら具合悪いみたい。フラついた勢いで窓まで割っちゃって、皆にもビックリさせちゃったわね。これ以上ヤバくならない内に、保健室に連れて行くわ。もう少ししたら先生来ると思うから、事情説明と後片付け、お願いしてもいいかしら?」
申し訳なさそうにして、ミレイはリヴァルに頼んだ。先程の殺気に気付いていたにも関わらず、彼女はこれをルルーシュの体調不良で片づけたいらしい。リヴァルとしてもさっきのおかしな様子は気になるものの、ルルーシュをこれ以上好奇の目に晒したくはないし、他ならぬミレイの頼みなのだ。
「……み、みたいッスね。任せてください!あとは何とかしとくんで、会長はルルーシュのこと頼みます」
ゆっくり休ませてやってください、とにかっと笑って了解の意を伝えると、ミレイは礼を言ってルルーシュを伴い教室を足早に去った。
その後は、すぐにチャイムが鳴って授業が始まったこともあって、誰に会うこともなく2人は保健室にたどり着いた。
中へ入ったが、幸いにも誰もいない。保険の先生も今は、少し早い昼休憩中のようだ。
ドアを閉めて鍵をかける。静かな空間を、とのことで保健室のドアも壁も防音性の高いものだから、今のミレイたちにとってはありがたいものであった。
だんまりしたままのルルーシュの左手を取り、備え付けの水道で血を洗い流す。その後ガラスの破片が傷口に入り込んでいないのを確認して、ミレイは傷を消毒し、優しい手付きで包帯を巻いていった。
「…すまない、ミレイ。窓ガラスを割って」
手当てが終わり、ようやくルルーシュは口を開いた。覇気のない声音に胸を締め付けられるが、ミレイはそれを押し隠して微笑んだ。
「そう思うのでしたら、もう少し自分の体を大事にしてください。血が出てるのを見て、私、倒れるかと思いました」
「……まど、あとで弁償する」
「気にしないで下さい。あれは不可抗力、単なる事故です。怪我がそれだけで済んで、本当によかった」
真っ白な包帯に包まれた手を両手で包み込み、自分の額に当てる。心配する気持ちが痛いほど伝わってきて、ルルーシュはごめん、ともう一度謝った。
「ミレイ。極秘に囚われた日本軍人が1人、処刑されるというのは本当か?」
「……もう、知ってしまわれたのですね」
肯定の言葉が返り、ルルーシュはやはりそうかとため息をついた。
先程端末で見た情報を思い出す。
ルルーシュの推測通り、その人物は確かに囚われていた。レジスタンス…いや、日本人にとって影響力抜群の重要人物であり、ブリタニアにとっては危険人物である人間が。
画面に記された名は、『K.Toudou』。
すなわち7年前の戦争時に活躍し、属国内で唯一ブリタニアを土につけた男。「厳島の奇跡」と呼ばれた元・日本軍人。

―――『藤堂鏡志朗』

エリア11で活動するレジスタンスたちにとって、彼はゼロと並ぶ「希望」。そんな男が処刑されれば、黒の騎士団にも彼を慕う者はかなりいるので、活動の勢いを押さえ込められてしまう。ゼロとして、それだけは避けたい。
けれど『ゼロ』にとってはそうでも、『ルルーシュ』にとってはそんな事情はどうでもよかった。
「こわいよ、ミレイ。あの人が殺される、と思うと、目の前が真っ白になった……っ」
「ルルーシュ、さま」
「許さない。今度という今度こそ、ゆるさない!今まではまだ母上や姉上たちがいるからと、どこか甘かったが……あの人を奪うというなら、これ以上躊躇わない。ブリタニアを、ぶっ壊す!!」
怒りに燃える瞳が、磨きぬかれた紫水晶以上に輝く。ミレイはその美しさにしばし魅入っていたが、我に返ると主の前に跪いた。
「藤堂将軍は、キョウトの重鎮方にとっても重要な方。恐らく、今頃騎士団にキョウトから藤堂将軍奪還の依頼が来ているかと思われます」
「だろうな。日本解放戦線も弱くなり見限った今、このエリアで最大勢力となるのは黒の騎士団のみ……と、この考えは間違っていないようだな」
一旦ミレイとの会話を止めたルルーシュは、かかってきた電話の通話ボタンを押す。相手はどうやら扇のようだ。本当に良いタイミングである、とミレイは嘆息した。
用件を聞き終え、二言三言指示を出したルルーシュは、ミレイの方を見ると『ゼロ』の顔で笑った。
「騎士団に四聖剣が来た。この後の授業は、どうやら自主休校になりそうだ」
「はい。心得ておりますともっ」
主と同じように笑い、ミレイは胸に手を当て、頭を深く下げる。
「どうぞ、ご命令を。我が君」
「『奇跡』の男を、ブリタニアから奪い返すぞ」
「Yes, my majesty!」
琥珀の騎士の返事に一連の遣り取りを終えると、2人は誰にも知られずに学園から外に出て、黒の騎士団のアジトへと向かった。


向かう途中で諸々の用事を済ませ、着いた先でまず2人を出迎えてくれたのは、もう1人の騎士カレンであった。
「ゼロっ!!」
部屋に入るなり、彼女はゼロに飛びついた。まるで恋人にするような抱擁を交わし、体を離すと頭を下げた。
「申し訳ありません。表の生活を中断させてしまって。ミナにも」
「気にしない、気にしないっ。何て言っても緊急事態だし」
「その通りだ。それに、キョウトの紹介で来た客人方を放っておくのは、失礼だからな」
そう言って、カレンの背後で苦笑する扇と一緒にいる、目を丸くした見知らぬ男女4人に目を向けた。
全員黒の騎士団と同じ日本人ばかりだが、着ている服は若草色をした旧日本軍のもの。呆気にとられた表情をしているものの身に隙のないあたりが、彼らが優秀な軍人だと物語っていた。
「ようこそ、黒の騎士団へ。藤堂将軍直属の部下である『四聖剣』の皆さん」
呼びかけられて我に返った4人は、きりっと顔を引き締めると各々に名乗りを上げた。
彼らの名乗りに対してゼロも、知っているだろうが、と前置きして名乗った。
「私がこの黒の騎士団のリーダー、ゼロだ。副司令はそこにいる扇要。そして彼女たちは、私の参謀であるミナと親衛隊長のカレンだ」
「その…1ついいかな?彼はともかく、後ろの彼女たちは…あー、えぇっと…」
「ミナはブリタニア人、カレンはハーフだ。それが何か問題でも?」
逆にゼロに尋ねられて、朝比奈は口ごもった。他の四聖剣へ視線を向けると、それぞれ彼の弁護をするために口を開く。
「今のは朝比奈が悪い」
「千葉の言う通り、お前が悪いぜ」
「や、だってさぁ……ねぇ?」
「黒の騎士団が掲げるのは確か『人種や国など関係のない、平等で平和な世界』であろう。いくらこの国のレジスタンスが日本人ばかりとはいえ、それ以外がいたところでおかしいとは思わぬ。それは彼らの実績を見てもわかるし、何よりゼロ自身日本人であるとは限らないわけだからな」
「大体、桐原公が騎士団のこと説明した時に言ってたじゃねぇか。さてはお前、中佐助けてくれるなら何でもいいとか思って聞いてなかったな?」
…と思ったら、予想外にも出てきたのは彼への追い討ちだった。3人から容赦なく言われ、さすがの朝比奈も落ち込み黙り込んでしまった。
「すまない。朝比奈も悪気があったわけじゃないんだが」
「いや、彼の心配ももっともだ。幹部以外でも気にするやつはいたからな」
そんなやつも彼女たちの優秀さの前に何も言わなくなったが、とゼロは誇らしげに言った。2人もゼロの言葉にすごく嬉しそうである。その様子を見ていた4人は、まるで藤堂と自分たちを見ているみたいだと思った。
「扇、カレン。頼んでいた武器の準備と、紅蓮の整備は終わったか?」
「こっちは今、数の確認作業中だ。さっきあと少しだったから、そろそろ終わるだろう」
「紅蓮の方は夕方には必ず。その分、今日の成果期待しててくださいっ。何しろ、朝パーツと一緒にあの人が来てくれたんですよ!」
「あぁ、そっか。先に寄こしたから、さっきの電話で狸じいちゃんが笑ってたわけね」
「みたいだな。こちらより先に知っていたから、手を回してくれたわけか。あとは…」
「今日の警備配置や建物の見取り図なんかは、もうすでに調べてあるわ」
「さすがだ、ミナ。扇、ディートハルトに盗聴器の準備をするよう伝えてくれ。それから客人たちのために、5つ部屋を用意してほしい」
「いいけど…部屋5つ?」
「作戦終了後は夜も遅いし、疲れているだろう。彼らがここに留まる留まらないはともかく、今日は泊めようかと思う」
言外に、ゼロが騎士団への協力依頼と四聖剣の騎士団入りは別物だとあっさり言い切ったことにその場にいた全員が驚いたが、扇は了承の意を伝えると、部屋を出て行った。
残ったのは、ゼロ、ミレイ、カレン、そして四聖剣。
先に話しかけたのは、仙波であった。
「とりあえず、ゼロ。藤堂中佐救出のために力を貸してくれることに礼を言う」
「構わない。キョウトからの依頼でもあるし、『奇跡の藤堂』は、ここで散らしてしまうには惜しい存在だ」
「けど、いいのか?そっちにしてみれば、俺達が入る方が都合いいんじゃねぇの?」
「それは、藤堂将軍が「仲間になる」と言ったら、だろう。四聖剣は彼の忠実な部下と聞く。あなた方だって離れる気はないだろうし、私も離す気はない。ならば答えは、つまり彼の意思次第」
卜部の疑問に、ゼロは淡々と答えた。それを補足するように、カレンとミレイが口を挟む。
「どれだけこちらに利益がある入団だろうと、本人が嫌々なら別に結構ってことよ」
「ウチのリーダーはね、とぉっても優しいのよね。おわかりかしら?」
2人の言葉に、強制しても意味がないからな、とゼロは付け加えた。
しかし四聖剣はそれに、更に首を捻った。
「では、ますますわからない。今後我々の戦力に期待して、と言われた方がまだわかるくらいだ」
「俺達が言うのもなんだけど、もし藤堂さんが「仲間にならない」って言ったら、黒の騎士団の邪魔になる可能性だってあるのに」
もっともキョウトに仕える者と支援を受ける者なら邪魔になることはまずないだろうけど、と千葉に続いて朝比奈も訊ねた。
それに対して、ゼロは言った。
「その答えは、先程の通りだ。スポンサーであるキョウトから依頼を受けたから。藤堂将軍という、日本の希望とも言うべき男を失うのは、惜しいことだと思ったから」
それから一拍おいて、ゼロは先程の言葉にはなかった答えを、続けた。
「…それに、これは『私』のためでもあるからな」
「ゼロ個人の?」
ゼロはマントを翻し、背を向ける。まるで、表情を見られないようにするかのように。
四聖剣もカレンも、怪訝な顔をした。事情を知るミレイはただ1人、静かな表情で主を見つめている。
「そう。たった1つの、小さな約束を果たすために」
ゼロは強い口調を露わにそう言い残すと、彼女たちを伴って、ついてこい、と四聖剣たちの先を歩きだした。
そしてしばらくして。大広間に幹部たちを呼び出され、藤堂救出作戦実行への説明が始まった。