その一瞬、『彼』に会ったのか、と錯覚しそうだった。

惹きつけられたのは…恋焦がれてやまないほど深い、蒼穹の瞳。



焦燥の瞳



 直前まで気配を感じさせず、10人という人数に囲まれる中で、シカマルは冷静に周りを見渡した。
同じような黒装束で、目以外を全て纏った者ばかり。
緊迫する空気の中、動き出したのは向こうが先だった。
あるいは脇差を持ち、あるいは素手で襲い掛かってくる者たちをなぎ倒す。
だが、敵は予想以上にしぶとく、何度やっても起き上がり襲ってきた。
その間に、シノと共にシノギを守るようにしていたシカマルは敵を観察した。戦闘に参加していないのは、もちろん自分がこの中では戦力が一番低いと自覚しているからだ。
(『表向き』は………だが、な)
本当は、5年前まで暗部で『黄泉』としてやっていたから、彼らよりも実力はある。しかし、あの時以来、木の葉の里に自分の力を最大に貸そうとはしなくなった。
(さて……何かおかしいな。こいつら)
思考を切り替え、さっと周りを見る。
シカマルは、敵に対して違和感を抱き始めていた。
普通なら、今や有能な忍として実力のある彼らの攻撃を受ければ、倒れたままになる。しかし、相手は何度やっても起き上がる。
しかもある一人が、やりあっているサスケの攻撃が急所に入ったにも関わらず、平然と起き上がってくるのを見てしまった。
その時、中の一人がシノギの背後にふらりと近づいてきた。シカマルは遅れて気付いたため、一瞬対処が間に合わないと確信する。
ところが、その相手は、シカマルの攻撃を受けて、吹っ飛んでいった。
(……?!変だな…攻撃できたはずなのに、しなかった…?)
そうしてしばらく考え込み、結論に達すると、すぐさま行動に移った。
護衛をシノに任せ、近くで2人を相手にしていたネジの元へ、滑り込む。
「ネジっ」
「…!なんだ?」
「今すぐ白眼で周りを見てくれ」
一度首を傾げるも、任務前に見せたシカマルの頭の良さを考え、ネジは言われた通りにする。
そこでネジは、驚くべきものを見た。
「…っこれは?!」
「そいつら、『人間』か?」
「い、いやっ。ただの人形だ!」
その言葉に、シカマルは自分の考えが当たっていたことを知った。
「なら、次だ。この部屋に俺達以外の人間がいるはずだ。そいつはどこだ?」
戦いながらも、ネジは白眼で探す。
しばらくして、彼は天井の一角を指した。
「あそこだ!」
指摘された場所に、シカマルはクナイを投げる。
クナイは、天井に深々と刺さった。
どこだ、と探す前に、ふと後ろに僅かな殺気を感じた。
背後から喉に短刀を突きつけられる。
だが、シカマルはその動きまでも読み。、同じく相手の喉に袖に隠していたクナイを突きつけていた。
相手が驚いて、くっと息を呑むのがわかる。
どんなやつなのか見ようと、後ろを振り返った瞬間。
シカマルは、予想以上の驚愕に目を瞠った。

黒い衣装から唯一覗く目は、真夏の空を映したような、蒼い瞳。

それは、常に隣にあった、あの色と同じような気がした。


「話に聞いてた通り。頭だけは冴えてるようだ」
青年がそう呟いて、スッとシカマルの首に突きつけていた短刀を引いて鞘へ直した。
それを合図に、あちらこちらで起き倒れていた10人が、霧になって消えていく。
我に返ったシカマルは、とりあえず危険は去ったと判断し、青年に突きつけていたクナイを収める。もちろん、警戒は解かない。
「もう良いかな?蒼輝(そうき)殿」
いつの間にか張り詰めていた息を吐き出して言ったのは、祭夜シノギであった。
シカマルたちが驚いている横で、「蒼輝」と呼ばれた青年は、手をパタパタと振った。
「あぁ、構へんで。…すまんかったな、シノギ様」
「気にするな。お主の気がすんだなら、それで良い」
目一杯申し訳なさそうにした蒼輝に、シノギは苦笑する。
シノギと青年が知り合いであるとわかった彼らは、蒼輝を睨み付けた。
「どういうことだ……?」
「少々、試させてもろた。お前らの力が、如何ほどのものなんか」
「…それは、俺…我々の力が信用できないと?」
「オレはなっ。木の葉には優秀なやつがおる、なんてお姫が言うさかい、どれほどなんか知りたかってん」
腹ただしさも露に、蒼輝は吐き捨てるように言う。
「許可は貰てる。オレがあんたらの実力を認めへん場合は、オレが単独で動いてもええ、ってな」
大体お姫の推薦ってのが気に喰わへんかってん、と蒼輝は呟いた。
彼の言う『おひめ』が誰なのかは気になるところであったが、今はそれよりも彼の判定の方が気になった。
「で、結果は?」
やや置いて、渋々と蒼輝は口を開いた。
「ちょいバラついとるし大したことあらへんけど……まぁ、合格や。個々の能力の高さと、まだ会うてへん彼女たちの力と……多少おまけして、そこの奴の頭の良さに免じてな」
不機嫌に言い残すと、彼は一瞬の内に空気へとけるように消えてしまった。

残された彼らは、再び部屋に座った。そこは今まで何事もなかったかのように変わらず、静まり返っている。
「シノギ様…今の者は、一体…」
「あれは、蒼輝殿といってな。今回、唯一私の護衛を引き受けてくれた者で、あれ一人で優秀な忍10人分に匹敵する実力を持つ。普段は、人懐っこくて、根はいい子なんだが…」
シノギが言い淀む。彼から見ても、蒼輝は余程木の葉の里が嫌いのようだった。
だが、シカマルはそれで納得しなかった。もう一つ質問を重ねる。
「あの者は、老中殿と昔から知り合いで?」
「いいや。確か4,5年ほど前に拾ってきたと…知人が、紹介してな。それからはたまに顔を合わせている。それが何か?」
曖昧にいいえ、と答え、シカマルは動揺する自分の思考に、また沈み込んだ。

まさか、という思いがめぐる。同時に、あの時見た『彼』は間違いなく本物であった、という思いが蘇る。
だが、先程見た蒼穹の瞳には、シカマルに対して敵意が感じられた。気配も、あの頃の彼とは全く違う。
けれど、彼は酷く嘘をつくのが上手であったことも、シカマルは知っていた。
(『ナルト』じゃ、ない、のか………?)
何にせよ、今その答えは、出るはずもなかった。


そうこうしているうちに、サクラとイノが戻ってくる。
同時に、夕餉の準備が出来たので、まだ会っていない6人も含め全員に来てほしい、と王弟殿下からの伝言が届いた。



〜あとがき〜

いつもよりちょっと短いですが、これが2006年最後の更新になると思います。ってか、今年はもう今日で終わりなんですが;
けど、出せたっ!関西弁のお兄さん『蒼輝』。全身黒ずくめで容姿とか全然出てないんだけど…年内に書けたのはよかったです。どんな人なのかは、これから触れていきます。
謎が更に謎を呼び、果たしてシカマルの予想は当たるのか?!
もしこの先、終わるまでに「ラストはこうかしら?!」なんて、謎が全部わかったという方がいらっしゃったら、こっそり教えてください。賞品は応相談(笑)
ちなみに、あと数人はオリキャラ出る予定です。…こんなんで、1月以内に終わるのかな?(ダメなら引き伸ばします)
次の回は来年です。では、よいお年を!!