まだ、日も完全に昇らぬ時間帯。山の端が、菫色に染まり、柔らかい雰囲気を醸し出している。



 さらりと、床に流れた長い髪を見て、一言。

「……あー、ヤバいなぁ」

あぁ…どうしたものだろうか、と。呟く内容と声が合っていない。
起き抜けの第一声がこれとは、何と反応を返せばいいのか。しかし、そう突っ込んでくれるだろう彼女の相棒は、今現在この場にいない。
「もう潮時なんて、早くないか?」
誰にともなく呟いて、彼女は任務用の黒いタートルを引っ張り出し、身につける。
『今年で13であろう?我はもう少し早いと思っていたぞ』
「10か11くらい?」
『うむ。大体がそうだからな』
内側から響く同居人の声は、そろそろだと確信していた感じであった。
彼女は嬉しいのか寂しいのか、複雑な顔でため息をつく。
「…もう少し、いたかったな」
『言うても詮無きこと。確かに好いやつもいたが、それも一握りでしかないであろう』
「わかってるよ…」
自分のこの姿を見れば、その他大勢の連中がどういう反応を返すか。そんなことは百も承知だ。昔から何もかも隠して、こうやって生きてきたのだから。
「じゃあ、さっさと荷物持って、出て行きますか」
『あそこへ行くんだな?』
「あぁ。あそこなら、特に心配はいらないし。契約でもあるからな」
『あやつには、何と言う?』
ぴたりと、彼女は一瞬動きを止めた。
「……なにも、言わない」
硬い声で、そう言った愛し子に、同居人は怪訝な顔をした。
『あやつなら、受け入れてくれる気がするけどなぁ』
「だけど、そのせいであいつから『今』を離すことなんて、したくない」
そんなのは、ただの『我侭』だ……。
声なき呟きが、部屋へととけていく。
同居人も、もう何も言わなかった。
そして、すっと立って、隅においた荷物を肩から提げて、玄関へ向かう。

「…さようなら……」

後に残されたのは、無情なドアの響きだけであった。



喪失の月珠(ひかり)



〜あとがき〜

………一応、これでも半シリアスになる予定です(けど予定は未定;)
テーマは『ありえる一つの未来の形』…それって、テーマなのか?というツッコミはさておき。
話としてはシカナルで、オールキャストを目指したいです。
まぁ、企画挫折したので…更新はゆっくりになるかな。