厨房から風に乗って、ふんわりと甘い匂いが漂ってくる。
「楽しみだな、ミカゲ」
「ぷるぴゃ」
テイトはミカゲと一緒に、あと十数分後に始まる日課のティータイムへの期待とその匂いを楽しんでいた。
彼は今、中庭の庭園に備えられた椅子へ手持ち無沙汰に座りながら待っていた。
というのも、テイトが手伝えることと言ったら、せいぜい食器を並べられるくらいだ。
何しろかなりの不器用さんだったため、残念ながら、料理に対してもその才能は例外なく日頃発揮されている。
そもそもこの時間が日常となりつつあるのは、先日の会話が発端であった。
『子供の頃は、3時のおやつの時間が楽しみで仕方なかったですね』
クッキーに舌鼓を打ちながら、ハクレンはそう言った。口に運ぶ手つきは、さすが名家の出とあって優雅なものだ。
『3時のおやつ…?』
聞きなれぬ言葉にテイトはミカゲと一緒に首を傾げる。
一方の司教3人はというと、言葉の響きに懐かしいものを感じていた。
『おぉ。そういや、そんな名前の戦争の時間もあったな』
『戦争?私も3時にティータイムを楽しんだことはありますけど、そんな経験はありませんよ』
『僕も。むしろ色々なお菓子をくれたけどな』
『いいよなぁ、お前ら。俺のところは取り合いだったぞ。人数多かったから、好きなもの食べたきゃ確保するしかなかったぜ』
しみじみと語るフラウに、カストルとラブラドールは呆れと同情を混ぜた複雑な視線を送った。
『テイトはそういう経験ないか?』
司教たちの話を聞き終わったハクレンが、未だ首を傾げるテイトに話を振る。
だが、テイトから返ってきた言葉に、4人は非常に驚かされることとなった。
『3時のおやつっていうか…お菓子なんて食べたこと、なかったし』
テイトは、それっておいしいの?と眉を寄せた。
慌てたのは、他の4人である。まさか今時、この歳でお菓子というものを一度も食べたことない人間に出会うとは、思ってもみなかった。
『だってさ、オレって…その、いたところがそういうの持込厳禁って規則で決められてて。ミカゲに飴玉っていうのもらった以外は、見たこともなかったし』
こうやってクッキーを食べるのも、今が初めてだというテイト。
フラウは思わず眩暈がした。
どれだけこの子供は不憫な境遇にあったのだろうか。考えるだけで頭が痛い。
『おい、クソガキ。とりあえず、これも食え』
『え、いいの?』
差し出された別種類のクッキーに齧りつき、舌に感じた甘みに少しだけテイトは微笑んだ。
『テイト君。こちらもよろしかったらどうぞ』
『お茶、おかわり入れようか?』
『気に入ったのがあったら言え。また作ってやる』
次々にかけられる言葉に、彼は目を瞬きさせた。
けれど、どの言葉も彼を思う心が溢れていて。
『えっと、あの…ありがとう』
俯き加減に、けれど本当に嬉しそうに、はにかんだ笑顔をテイトは浮かべた。
あれから、3時のおやつの時間は、中庭でのお茶会が開かれる。
ハクレンとカストルがお菓子を作り、ラブラドールがお茶を入れる。フラウは2人の司教の分まで子供たちのおやつの準備を手伝ってきた後、すぐ合流してくる。
それはすべて、テイトのため。
「テイトーっ、これそっちに運んでくれ」
「うん。わかった!」
椅子から立ち上がり、呼ばれた方へ小走りに駆け寄っていく。
それはバルスブルグ教会の、ある穏やかな日の午後のこと。
もうすぐもうすぐ3時のおやつ
拍手再録。07-GHOSTで、テイト+司教&戦友でした。テイトはあの境遇でお菓子なんて貰えそうにないですけど、ほろりとしたミカゲがいっぱいくれそうです。何かミカゲは飴玉いっぱい持ってそうな気がする(ォィ