「秋、だなぁ」
「秋だな。この間まで暑かった夏が終わって涼しくなったのだから、次が秋は当然だろう」
「…情緒がないぞ。大体…何でお前がここにいるんだっ!!」
「それを持ってきたのは、俺たちだが」
「あぁそうだなっ。それはわかっている。だから、あっちでリィと一緒に待っていろと言ったのにっ」
「あの2人と一緒になど、待っていられるか。それならこっちでお前の観察でもした方がずっと楽しい」
「私は珍獣じゃないっ。…あの2人と一緒が嫌というのは、気持ちはわからなくもないがな」
はぁ、とため息をついて、シェラは暇そうにしているのならとヴァンツァーに包丁を持たせて手伝ってもらうことにした。
事の起こりは、昼になる1時間ほど前。
敵(?)であるはずのレティシアとヴァンツァーが突然やってきたことに始まる。
いつもなら速攻で追い返そうとするのだが、今日は少しだけ様子が違った。
「いっつも手ぶらってのも悪ぃからさ。ほら、王妃さんとお嬢ちゃんにおみやげ♪」
「お。美味そうなきのこじゃん。こっちは山菜か」
「…毒なんて、入ってないだろうな」
「んなの入れてねぇって。なぁ、王妃さん」
「あぁ。別に変なものは入ってないぞ。シェラ」
「そうそう。だからさ、これでなんか作ってほしいなv」
ようは、材料持ってきたから調理しろ、ということだ。
確かに、シェラはレティシアが嫌いだ。だが、料理はかなり好きである。
しかも、こんなに見事な山菜を目の前にして放っておくのは、シェラの料理人精神に反する。
幸い、今日は王は用事があるとかで夜まで城にはいないから、来る心配もない。
つまり、レティシアと鉢合せすることはないのだ。
山菜とリィのためだから仕方ないと、彼らの存在には目を瞑ることにして、シェラは早速用意に取り掛かった。
簡単にだがテーブルの上を整え、リィたち3人にここで待って貰うように言い置き、自分は厨房に入って下ごしらえをする。
その十数分後。
あの2人の間にいることに耐えられなくなったヴァンツァーが、シェラの方に避難し、冒頭の会話に戻る。
鍋の中のシチューを煮込みながら、別の作業を進めるシェラの手際はいい。
彼らの持ってきた材料に色々足して、あっとういう間に一品、また一品と出来上がっていく。
しかも、本人は気付いてないようだが、ヴァンツァーが隣にいるのに笑顔で楽しそうだ。
「…お前なぁ。呆けているのなら、ここの皿をあっちに持って行け」
手伝いも一段落してじーっとシェラを見ていると、その彼が呆れた顔でこっちを見返してきた。
彼の手にもいくつか皿があることから、もうほとんど終わりらしい。
さっきまでの様子を思い出し、ふっと笑うと、シェラは不思議な顔をした。
「いや、よくやるなと思って」
「何がだ?」
「料理。材料は俺とレティが持ってきたのに、楽しそうだ」
「…あぁ。お前達を完全に信用してるわけじゃないが、リィがああ言ったのだし、何より食材には何も罪はないからな」
それに彼らが持ってきたものは、どれもおいしそうだった。
シェラの信条として『おいしいものはおいしく食べてもらう』というのがある以上、無駄にはできない。
そう言うと、一瞬の沈黙の後、ヴァンツァーは面白いと笑った。
「何がおかしい」
「いや、銀色は可愛いなと思って」
「はぁ?」
「相手がレティでも変わらない、お前のそういうところは正直羨ましいかもしれん」
ずいと顔を近づけてきたので、シェラが思わず目を瞑る。
ヴァンツァーはその閉じた瞼に、冷たい唇を落とした。
そして、何が起こったのかわからず固まるシェラに笑いかけると、彼は皿をシェラの両手から奪い取って、厨房をあとにした。
「ほら。持ってきてやったぞ」
「ご苦労さん。黒いの」
「で?折角2人きりにしてやったんだ。何かお嬢ちゃんと進展あった?」
「………別に」
答えの前の沈黙が、やけに嬉しそうに聞こえて、にやにや笑うリィとレティシアであった。
閉じた目の上なら憧憬のキス
拍手再録。デルフィニア戦記・ヴァンツァー×シェラ+リィ+レティシア。テーマはキノコ&料理でした。
デル戦もそうだったけど、クラブレのヴェロニカ読んでたら、あの場面でそこまで料理できるとはさすがシェラっ、と思ってしまった(笑)
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