「世の中には、あの世とこの世を繋ぐ、道があるそうだ」
「また突然何を言い出すんですか。イタチさん」
任務の途中で急に言われ、鬼鮫はぱちりと瞬きを一つ。
「黄泉比良坂、と言うらしいな」
「あー、聞いたことはありますよ。確か、最愛の妻が死んだんで、生き返らせるために旦那が行ったって話でしたね」
「そう。だが、迎えに行った妻を連れ帰る途中、決して振り返るなとの約束を破ってみた妻の顔は、大変醜かったため、男は逃げたんだ」
「バカらしいですよね。振り向くな、って言われて、振り向くなんて」
「まぁな。自業自得だ」
鬼鮫の意見に同意を示すイタチに、彼は、では何が言いたいのか、と首を傾げる。それを見たイタチは、鬼鮫に尋ねた。
「お前は死者に会いたいと、思ったことはあるか?」
「さぁ。あんまり気にしたことはないですが…」
「俺は、ある。ただ一人だけ」
歩くスピードを緩めることなく、そう呟いたイタチは、自分の腰にある2本の刀を、懐かしむように見た。

――― もし一度だけ、会えたなら。自分は死んだあいつに一体、何が言いたいんだろう。

「へぇ。誰です?イタチさんの彼女ですか?」
「……。俺の『彼女』は、生きている」
答えてやるつもりのないイタチは、それだけ言うと、この話題をないことにした。それを悟って、鬼鮫は軽く肩を竦める。イタチがこうなのは、いつものことだ。

もうすぐ、彼の生まれ育った場所に着く。数日前、襲撃を受けたと聞いたが、あの子は大丈夫だろうか。

ふっと頬を綻ばせる。その微笑だけで、周りの雰囲気が和らぐ。
だが鬼鮫は大変珍しい現象に、顔を青くして、明日は槍が降るのではないだろうか、と本気で心配した。
「鬼鮫、行くぞ」
「は…はい。イタチさん;」
そうして彼らは颯爽と、見えてきた木の葉の里へと更に歩みを進めていった。



黄泉比良坂



拍手用SS。のお話。イタチさん+鬼鮫っち。木の葉崩しの後、偵察に来た道中にて。
ちょっと『初めの物語』にリンクしてる部分もあるんですが……今はまだ、繋がりがわからないことにアップしてから気付いた代物;