某月某日。木の葉で九尾襲撃事件が起きる、何年も前のこと。
「いやだぁっっ〜!!」
「やかましい。お前に拒否権はないはずだぞ。そういう約束だっただろうが」
「何さ、昔のことをネチネチ言って!そのうちハゲるぞ!」
「昔って、まだ2ヶ月前のことだろうが!!それに、あれはお前が悪いんだろうっ!!」
「ははっ。あきらめろや、シメ」
「うっさい!大体、何でお前がいるんだ?!」
「なにって、親友のザマがおもしれーから」
木の葉の高級料亭の一角で、青年達は暴れる一人を抑えて、廊下を引き摺っていた。
今日は、彼らの一人のお見合いの日。しかし、当人には既に恋人がおり、代理を立てて断ろうとしていた。
代理に選ばれたのは、彼の親友である中忍(理由は、先日彼の怒りを買った時に、何でも言うことを一つ聞くと言ってしまったから)。傍から見れば、金色の髪に空色の瞳、と中々の美青年である。
そして、面白そうだからと代理の青年の悪友まで着いて来ていた。
「いいか。絶対に、話を破談させてこい」
「え〜。けど、どんな子かわからないんでしょ」
「私には、既にアヤメがいるからな。他の女と結婚するなど、悪い話なんだ」
「ま、あの時あんなことを言った、お前がわりーんだよ。あきらめて、男らしく行ってこいや!!」
「うぉわっっ?!!」
悪友に突き飛ばされて、青年は思わず室内に入ってしまった。
ズシャァっ、といい音がして、転んでしまう。
「いってて…」
「……あの、大丈夫、ですか?」
そっと、声をかけられて、青年は顔を上げた。
白檀の香りと夜を思わせる美貌。静かな印象の彼女は、大変儚く、美しい人だった。
思わず、青年はしばしの間、彼女から目を離せなかった。
一方、外で青年を突き飛ばした2人は、見合いのために用意された部屋前の廊下にいた。
「で?どんな人物か、結局知らねーまま受けたんだな。ヒアシ」
「あぁ。父上と母上が、どうしてもと勧められてな。断れなかった;」
「何しろ、天下の日向家だもんなぁ。よかったぜ、俺の家はそんなお堅いとこじゃなくて」
「こらっ、シカク!そんなことをしてはバレるぞ?」
「んな押すなよ。大丈夫だって。ちょいと中を見るだ……け…?」
「うわっ?!」
中を見ようとした結果、体重のかけ方が悪かったのだろうか、突然襖が外れた。
「きゃっ」
「あ、危ない!!」
大きな音と共に、襖は部屋の中へと勢いよく倒れた。
「す、すまない!大丈夫か?」
「って、シメ?!お前何やってんだ?」
「………あ、あの?」
「………お前らが俺の頭に襖をぶつけたんだろうが!!痛かったんだぞっ。もうちょっとでこのお嬢さんに怪我させるところだったんだぞ!ちょっとはあやま…」
「何事ですの、サクヤ?!」
奥の襖から現れたのは、黒髪の凛とした美人。しかし、その場にいた全員が、彼女のことをよく知っていた。
彼女もまた、見知った顔ぶれを見て、目を丸くした。
「あらっ。お見合い相手ってあなただったの?」
「…違うよ…俺はヒアシの身代わり」
「あ、こらっ。言うな!」
あっさりと白状した親友に、彼は慌てた。だが、彼女の方はそれに目くじらを立てるどころか、驚いてこう言った。
「まぁ。だったら、可愛い従姉妹を身代わり立てることもなかったわ」
「………みたい、だな」
「ってかよ。お互い最初っから見合い相手のことくらい、知っておけばこうならなかったんじゃねーのか?」
「それは、言わないお約束でしてよ」
そう言って、アヤメはホホっ、と優雅に笑った。
「なんだ。結局、あの2人、お互いがお見合いだったのかぁ」
「あの方が、アヤメちゃんの殿方、ですの?」
「そ。僕の幼馴染で親友の、日向ヒアシ。いい奴だよ」
「…あの方でしたら、アヤメちゃんは幸せになれますわね」
ふわりと笑顔を浮かべて、彼女は従姉妹であるアヤメを見る。
そんな彼女を横目で見て、頬を赤くした青年は、意を決して彼女に話しかけた。
「あの。名前、聞いてもいいかな?僕は、注連縄っていうんだ」
「……サクヤと申します」
先程はありがとう、と彼女――サクヤは微笑んで注連縄に礼を言った。
こうして、4代目となる希代の忍と幻の一族の巫女の、後に結婚することになる2人の縁ができあがった。
「そういえば、皆さんに言い忘れてましたわ。特に注連縄さん」
「な、なぁに?アヤメちゃん」
「私のサクヤに怪我をさせなかったのは、褒めておきますわ。ですが、私のサクヤに手を出すのでしたら、二度と海面に上がれない程の石をしっかりとお体にくくり付けて、霧の海に放り込まれるくらいのお覚悟をなさいませ♪」
あっさりと注連縄の恋心は看破され、笑いながらその発言はその場にいた男たちを凍らせた……らしい。
身代わり
初・親世代のお話です。というか、四代目とその奥さんが出会う、の巻です。
何となくシメさんは奥さんに一目惚れかな、とか思ったんで。我が家の奥様・サクヤ嬢は日向の奥様・アヤメ嬢の従姉妹です。性格については…そこらのお嬢様とは三味くらい違います、とだけ言っておきます;
男3人については…全員アカデミーでの幼馴染です。そこにイノイチさんとチョウザさん(時に他の旧家メンバーも入る)が混じっていつものメンバーになります。
またこの世代で書いてみたいな、と思います。
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