「あれ、何かしら」
いのが指差す先には、小高く盛り上げられた土の上にある朽ちかけた石。よく見れば三匹の猿が掘られている。
「こいつは庚申塚だな、ナル」
「そうだな」
「庚申塚?」
見ればチョウジも知らないらしく、何それと聞いてきた。
「昔《庚申の日》ってのがあって、人間の体には三尸虫ってのがいて、その日、寝てる間に天帝に悪事を報告しに行くって考えられてたから、それを防ぐために夜通し眠らないよう宴会したってわけだ」
「へぇ。ってことは、これってその考えに基づいて建てられたんだね」
「そういうことだ」
「でも、何で猿なの?」
ナルトの説明の後、首を傾げるいのに、シカマルは猿を指して教える。
「庚申の《申》は、干支の猿に例えられる。だから《見ざる、聞かざる、言わざる》の三猿を祀ったわけだ」
「あっ、この猿たちって、そういうことだったのね」
「じゃあ、その虫が天帝に悪事を報告したら、どうなるの?」
「あー、確かそいつの寿命を削るんだったと思うぜ」
面倒くさそうにしながらも、シカマルは質問に答える。
「そのために宴会やるなんて…俺から見りゃ馬鹿だと思うがな」
「やっぱり寿命を削られるのが怖いんじゃない?」
「どれくらいあるかわかんねぇもののためにか?めんどくせー」
「結局、シカはそこに落ち着くんだな」
「うっせぇぞ、ナル」
「でも、眠れないほど怖いなら、悪事なんて働かなきゃいいのにね」
一瞬の沈黙の後、3人の笑い声があたりに響き渡った。
「もうっ、そんなに笑わなくてもいいじゃない!」
「…クックッ、わ、わりぃ。つい面白くて…」
「あははっ、いの良いこと言うねぇ」
「いい加減にしてよっ。ナルまで!」
笑うナルトは、怒るいのに誤りながら、やはり笑ったままで、こう言った。
「けどよ。悪事を働かない人間なんて、そうそういないと思うぜ」
いるとすれば、根っからのお人好しと生まれながらの僧侶くらい。
でなければ、自分たちという存在が必要になるはずがないのだ、と。