夕闇が段々と空を侵食していく中、彼女はそこに座り込んでいた。
「何やってるの、ナルちゃん?」
「ヒナ」
大事な幼馴染を探して、高い屋根の上まであがってきた、この家の当主の娘がその姿を見つけて笑いかける。それに微かに微笑んで、ナルトはまた遠くへと目をやった。
「綺麗だね。灯篭流しの火」
「灯篭流し?」
「えっとね、父上が言うには死んだ人の魂がお盆に帰ってくるから…えぇっと、迷わず無事に帰れるように、だったかな?」
「あぁ。灯篭を道標に、ね」
聞いたことがある、とナルトは小さく呟いた。その表情は何も映してはいない。ヒナタは忘れるにはまだ新しい、悲しい出来事を思い返して、ぎゅっと胸を詰まらせた。
 一つ、二つと、幾つもの光が遠くに見える川を流れていく。大人たちから聞いた限りでは、九尾襲撃事件の犠牲者たちを偲んで始めたらしい。
竹ひごで編んだ篭に色を付けた和紙を貼り、ろうそくを灯す。色とりどりの灯篭の光はぼんやりとしていて暖かく、夜空に浮かぶ星のように見えた。
「………も、迷ってるかな?」
しばらく黙っていたナルトが、小声でそっと呟いた。ナルトが出した死者の名は、表向きには死んだとされていない人。その言葉に、はっと目を瞠らせたヒナタは、しばし考えて答える。
「だったら、ナルちゃんも灯篭作る?」
「え……いい。オレは行けないから」
「うん。わかってる。きっと怪我させられるもんね」
「それに、オレには送る資格が、ない」
「そんなことないよっ。そんなことは……。けど…作るだけならいいでしょ?後で私かネジ兄さまに頼んで、流してあげるから」
「………でも」
「こういうのってね…よくわからないけど、生きてる人のためにやるんじゃないかな」
「生きてる人…」
「うん。だって、死んだ人が迷わず天国に帰れたら、きっと心配しないと思うの。そして何より…死んだ人を思うために」
「思う………」
「生きてる人は死んだ人の分まで、生きなきゃいけないから。そのためには悲しむのは止めて、前に進んで行かなきゃ。だけど、それじゃ忘れちゃうから。だから一時だけその人を思い出して、祈るの」
「………そ、か」
真剣で一生懸命なヒナタの言葉に、ナルトはそっと目を閉じて微笑んだ。その微笑みは今にも泣きそうで、儚かった。
「だから灯篭を作ろう、一緒に?」
「……あぁ。そうだな。ヒナ」
同じく泣きそうになっていたヒナタに、今度は穏やかに笑いかける。すると、ヒナタも優しい笑みを浮かべた。
「下に降りよう、ナルちゃん。それで、灯篭作ったら、母上が冷やしてくれたスイカがあるから」
「あぁ。ネジとハナビと一緒に、スイカ食べような」
ヒナタを促して、先に下へ降ろしながら、ナルトは約束した。
降りしなに、もう一度灯篭流しへと視線をやる。すっかり染まった夜の暗闇を、幾つもの光が流れていく。その光に導かれるよう、この世のものでない光が幾つも空へと昇っていくのを、ナルトは見つめた。
ヒナタは、罪を背負うナルトにもそれをやる資格があると言った。自分にも上手く灯篭が作れるだろうか。

願わくは、彼女も迷わず帰れますよう。

そう口の中で呟き、ナルトはツインテールの髪をなびかせて、ヒナタの隣へと軽やかに着地した。



灯篭流し



時間としては、シカマルたちに再会する少し手前くらいで。ちなみに女の子状態です。