いつもの任務の帰り、ふと道端に袋が落ちているのに、彼女達は気がついた。
「何かしら、あれ」
「さぁ?何だろうね」
ひょいと拾い上げてみる。中身が軽いのか、持っても大した重さではない。
手のひらより少し大きめの巾着袋。それほど汚れてないことから、誰かが落としたものだと思われる。
「落し物…かしら」
「警備班に渡した方がいいかな」
「それよりは、あたしたちが届ける方が早い気はするけど」
何か持ち主の特徴がないか、巾着をよく見るが、持ち主の手がかりらきしものはない。
「こういう時って、忍犬とかいたら便利よねー」
「そうだね。ね、中見たら?」
「そうね。中のやつにこそ手がかりってものがありそうよね」
でも軽いわ、なんて言いながら、彼女達は巾着の中を見た。
その中には…また、袋。
「…これは、あれ?あたしをバカにしてんのかしら」
「違うと思うけど;きっとこの中じゃないかな」
そう言って開けられた袋の中のものをみて、彼女らは驚愕した。
「……っな、なによコレ〜?!!」
「…で?散歩の最中に拾った巾着が、これ、と」
7・10班合同演習待ち合わせ場所で、例に漏れず本日も遅刻の7班担当上忍を呼びに行った10班担当のアスマを待つ間。
イノが任務を散歩と偽って、下忍6人で輪を作って話すと、真ん中に置かれた昨夜のそれを親友のサクラは胡乱げに見た。
「何で届けなかったのよ」
「だって。届ける気にならなかったのよ」
「チョウジもか?」
「う、うん…」
お菓子を食べる手は止めなかったものの、気まずげに目を逸らしたチョウジはどこか変である。
「ふん。ただの巾着ごとき」
「ただの巾着じゃなかったんだよね」
「はぁ?何言ってんだ、チョウジ」
曖昧な言葉で、戸惑う2人。余程のものなんだろう。そこでナルトがいい加減痺れをきらして尋ねた。
「結局中身は何だったんだってば?」
「あ、えっと………何が入ってても、驚かない?」
「…どういうことだ?」
「ホントよ。いい?絶対に引かないでね?」
イノとチョウジの念押しに、一同勢いに負けて頷く。
そうして開けられた袋の中は………
「……おい」
「これって…」
「あ、あぁ…なんていう、か」
「…………ね。これ、オレ?」
中には、明らかに手作りされたと思われる、ちょっと毛羽立った小さな人形。
しかし、問題なのは、その姿だった。
【…っていうか、ナルトそのものじゃんっ!!】
黄色い髪に、目は青色。ご丁寧にも頬に髭のような傷があり、オレンジの衣装は細部まで本人と同じだ。
「うわー、すっげー。ホント、ナルトにそっくりじゃん」
「よ、世の中にはこんなものが売られているのかっ?!」
「バカじゃない、サスケ君!誰がどう見ても手作りよっ」
「…っうわ!なんか寒気が走ったってばよ!!」
顔を青くして体を震わせるのは、ナルト本人。隣にいたイノがよしよし、と慰める。
「だから言ったでしょ。『届ける気にならない』って」
「こりゃあ、そうだな;俺でも届けたくねぇ」
「私も嫌ね。イノの気持ちがわかるわ」
「………(欲しい、かも)」
「サスケ。持って帰っちゃダメだよ」
「(ギクッ)な、何のことだ?」
「でもさ、これ。誰が作ったんだってばよ?」
ナルトの一言に、全員がそれを考える。どことなく愛嬌のあるこれは、明らかにナルト好き人間が作ったものだ。
『う〜ん……』
「おっまたせっ☆ナルト、今日も可愛いネ!」
「うっせぇ、カカシ!お前は少し反省しやがれっ」
その時、ようやくカカシとアスマが到着した。
しかし、誰も出迎えず、ひたすら考え込んだままだ。
「ナルトぉ。サクラぁ……」
「あ、カカシ先生来たんですね」
「遅いってばよっ」
「いい加減にしろ。ウスラトンカチめ」
「ご苦労さま、アスマ」
「おう。で、その人形何だ?ナルトに似てる気がするけど」
覗き込んだ先にある人形を、アスマは引き気味に見た。
「あ、それ。誰が見つけたノ?」
「あたしですけど」
「うわぁ〜、ありがとー!!どこで落としたのか、探してたんだよネ〜っ」
『……は?』
感涙してナルト人形を抱きしめて喜ぶカカシに、全員の目が点になる。
「そ、それってカカシ先生のなんです、か?」
「ウン!も〜、そっくりでショ?友人に頼んで作ってもらった力作なんだヨ!」
「いや、そんなこと聞いてねーんスけど」
「でもネ、昨日落としちゃって、ずーっと探してたんだんだヨネ〜」
あぁ見つかってよかっタ、と嬉しそうに人形に頬擦りする大人を見て、全員が悟った。
―――こんな大人のために、あの人形を生かすべきではないっ、と。
そしてちゃっと、サスケがクナイを構えて、カカシに向かって投げた。
「死ねっ、このストーカー上忍がぁっ!!」
「わっ!サスケ、いきなり何すんの?!俺のナルト(人形)に傷がつくでショ!」
「やかましいっ!一度逝って来いっ。むしろさっさとその人形を渡せっ!!」
いつもの通り、戦闘を始めた2人。目的がすり替わってるサスケにも、冷たい視線は注がれるが、気にすることはなかった。
「所詮、サスケ君も同じ穴の狢、ね」
「ねー、アスマ。あたしたちも参加して良いかしら(いい加減頭にきたわ、あの害虫!)」
「あ、私もやりたいっ(7班でナルトを守れるのは私だけねっ)」
「僕、見物ね(イノがやるなら、いいかなぁ)」
「あー、好きにしろ(どのみち、俺も止める気ねぇし)」
楽しそうに駆けて戦闘に参加するイノとサクラに、適当に返事をしてやる。
「おい、ナル」
「あいよ。ほどほどにな。今日、アレにAの任務入れてるから」
「任せろ。8割で止めてやるよ。新薬の実験台をちょうど探してたんだよなぁ…」
「あと、人形の回収よろしく」
未だ青い顔で体をさするナルトに、シカマルはにやりと不敵に笑うと、黒いオーラを出しながら懐から出した怪しげな薬を取り出し、戦闘へと参加していった。
「あー、まだ震えが止まんねぇ!」
「これでも着てろ……はぁ。これで今日の演習内容も決まりだな」
「もぐもぐ…平和だね」
その後、のんきに会話をする3人の眼前で。爆発やら巨大な植物やらが混じる、恐ろしい戦闘が終了したのは、3時間後のことであった。
本日の演習。
上忍&下忍(1人)Vs.下忍3人(うち2人暗部)。
ちなみに、ナルト人形は無事シカマルによってナルトの手に渡り、人知れず処理されたようである。