※ Caution ※

アニメ黒執事の続き(続くのアレ!?)を、勝手に考えてみました。
新キャラ登場&活躍しまくりのお話です。
ドリームではありませんが(多分。)そういうのは苦手だ!という方は(そしてもちろん、アニメ未見の方も)どうかご注意下さい;

連載にするかどうかは、実はまだ決めていません。
いろいろと伏線(?)は張ってみたのですが、とりあえず今は単発、ということでご了承下さい。

キーワードは「ドイツ皇女」「“勇敢なる騎士”」そして「“悪魔殺し”」ということで…

それでは、よろしければしばしお付き合いの程を。













アニメ黒執事のラストをご存知ない方のために…

両親を殺し、自分に耐え難い仕打ちを与えた者に復讐する−その目的を果たすため、
自らの魂と引き替えに悪魔と契約を交わしたのは、わずかに少年の年頃のシエル・ファントムハイブ伯爵。
彼の完璧なる執事を演じ続けた悪魔セバスチャンは、主がその目的を達成するまで惜しみない助力を尽くし、
その対価として、ついに少年の魂を得る時に至る。
悪魔しか知らぬという孤島へシエルを連れ出し、今この瞬間にも儀式を始めんと、悪魔がその本性をあらわにしたとき−







勇敢なる騎士(ムーティヒ・リッター)





“極上の魂”を目の前にして、セバスチャンは少し眉をひそめた。
今しも、待ち望んでいたものを得ようとしていたその瞬間に、彼のほんの数センチ先を、一本の光がかすめていったのだった。
“神聖なる儀式”に水を差され、彼は少なからぬ怒りを隠せなかったようだ。禍々しいばかりの赤い光を放つ瞳で、刃が飛んできた方向を仰ぎ見る。
・・・・そこには、二人の男女が立っていた。
このような場には、何とも不似合いな二人である。
男の方はすらりと背が高く、黒髪を背のあたりまで遊ばせている。歳はせいぜい30前といったところか。執事と見るには、年齢的にも、見た目からいっても、少々奇抜な部類に入るかもしれない。
一方、女性の方は小柄な体格に、レースをあしらった黒いドレスを身にまとわせている。その姿は、まだ若いながらもひ弱な未亡人を思わせたが、その実、瞳の奥に宿る光は、どこか青年実業家さながらの活気にあふれているよう。陰と陽、すべての相対する要因が、彼女の中で、まるで矛盾することなく同居しているようだ。
そして、背の高い男の方は、セバスチャンの視線に気づくと、少しばかりの笑みを湛えながら、静かに告げた。
「ああ、これは申し訳ありません。しかし、あなたが先ほどから、わが主の度々の問いかけを無視なさるものなので、つい、見かねてやってしまったのです」
「誰ですか、あなた方は。ここは、悪魔しか知らない場所のはずですよ。本来人間が来るようなところではありません」
すると、男は心外とばかりに、少し肩をすくめて見せた。
「おや、我が通り名をご存知ならば、私どもがここにいる理由はすでにお分かりかと思っていましたが」
「あいにくと知りませんね。“悪魔殺し”などというふざけた異名を持つ、詐欺師の存在など」
「“悪魔・・・・殺し”」
薄れゆく意識の中で、シエルはかすかに唇を震わせた。
そして、その声にわざとらしく気づいた風を見せながら、男はシエルにちらりと目をやり、言った。
「それに悪魔のお方。ここに人間がいるべきではないとおっしゃるなら、あなたが傍らに控えさせておいでの少年にこそ、当てはまるのではないでしょうか。彼はあまりにもひ弱な人間だ。守るべき存在もなく、このような場所に来るなど、無謀にも等しい」
「だからといって、あなた方には関係ないでしょう。私の食事を邪魔しないで頂けますか」
食事――貪欲な悪魔は、確かにそう告げた。その瞬間、男の傍らで、女性がことさらに眉をひそめて見せた。
そして、そんな主の行動を決して見逃すことなく、男は言葉を継ぐ。
「ああ、そうでした。実は、本日はその件に関して我が主からお話がありまして、こうして遠方までわざわざ出向いてきたのです。それではお待たせいたしました、我が方。どうかこちらの悪魔とご交渉ください」
「ええ。ありがとうございます、ジェルマンさん」
恭しく腰を折る男に静かに礼を告げると、女性は、セバスチャンの前に歩み出た。その禍々しいばかりの邪気に、少しばかり足をすくませながら、しかし、まっすぐに、悪魔の目を見て問う。
「取引をしませんか、悪魔さん」
「ほう、この私と取引を、ですか。ドイツ帝国皇女殿下」
悪魔は、女性の身分を告げるには十分すぎる呼称で呼びかけた。なぜ、名乗る以前からそのことを知っているのだ!ごく一般の淑女なら、そう問いかけ、驚きをあらわにしたことだろう。
しかし、彼女からは、セバスチャンの期待したような反応は、いっかな見られなかった。
ほう・・・・悪魔は、改めて正面の女性を見据え、少しばかり舌なめずりをした。
「確かにそう申し上げましたよ、悪魔さん」
皇女から、再度そのような問いかけがあった。
「では、あなたもこちらの坊ちゃんと同じく、天国の門をくぐることをあきらめ、その魂を賭すというのですね」

「確かに、あなたのような悪魔と対等に交渉するには、それ相当の対価が必要でしょう。しかし私とて、我が高尚なる肩書きに溺れ、奢るような真似は致しません。私ごときの魂では、あなたのような肥えた舌を満足させることはできないでしょう」
「これは、ご謙遜をなさいますね。そんなことはありませんよ、皇女殿下。あなたほどの魂ならば、私との交渉の糧にもふさわしい・・・・」
「ああ。これは何とも光栄な言葉ですね。しかし残念ですが、私とてこれでも経験なるキリスト教徒です。天国の門は、くぐれるものならばくぐりたいところですし・・・・なので、本日は、あなたのために特別のものを持ってまいりました。ですので、それと引き換えに、そちらにいらっしゃる少年の魂を、私に売って下さいませんか?」
「これはこれは、御冗談を!」
叫ぶや否や、セバスチャンは高らかに笑い声をあげた。話にならない、声がそう告げていた。
「この魂は、私が長年、この日のために大切にお守りしてきたものです。それを、今更のこのこやってきた第三者に渡すともお思いで?」
「それは、こちらのものを見てからにしていただけますかしら」
そう言って皇女殿下は、傍らの男に目をやった。彼女の視線を素早く察すると、男は、手に持っていたアタッシュケースを開き、悪魔に向かって掲げた。
「こ、これは・・・・」
その中身には、さすがのセバスチャンも、感嘆の声を上げずにはいられなかったようだ。
「お分かりいただけたなら、お話は早いですね。そうです。ここにあるのは、ホーエンツォレルン家代々の当主の魂です。どうですか。私ごときとは比べ物にならないほど、極上の魂だと思いますが」
「これを、私との交渉の材料になさると」
「中から一つだけ、欲しいものをお選びください。どれでも構いませんよ。すべて、我がドイツ皇家の所有物なのですから。その代わり・・・・そちらの少年の魂は、私にくださいますか?」
皇女の問いかけに、悪魔はほんの少し、悩ましげな表情をした。しかしそれも、一瞬のこと。
「承知いたしました、皇女殿下。取引は成立ということにいたしましょう。私はこちらのご当主の魂をいただきます。代わりにあなたには、こちらの坊ちゃんの魂を差し上げましょう」
「ありがとうございます、悪魔さん」
「いえいえ。こちらこそ、すばらしいものをいただきありがとうございます、皇女殿下」
悪魔が、そう言って恭しく腰を折るのを見下ろすと、皇女は小さくため息をついた。
「そうですか。それはよかったですね」
「ところで皇女殿下。あなたのお手を煩わせるのは忍びない。身体と魂は、私の方で分けておきましょうか?」
いたずらっぽい笑みをたたえると、セバスチャンは問いかけた。再度、彼女からため息が――それも、今度はあきれたようなため息が、漏れた。
「その心配には及びません。後の処理はすべてこちらで行います。あなたのようなものの手を煩わす気はありませんので」
「そうですか、それは失礼いたしました」
「ジェルマンさん」
悪魔との交渉にはうんざりしたのか、彼女はセバスチャンから視線を外し、傍らの男に呼びかけた。
そして、前方で行儀よく木の枝にとまっていた鳥を指差して、言った。
「あそこにいる鳥に餌をあげてください。なるべく、たくさん」
「わかりました、我が方」
快くうなずくと、男は、懐から真っ赤な肉塊を取り出した。
つくづく準備のいい男である。あるいはこのような事態も、最初から想定していたのだろうか?
「ずいぶんとお優しいのですね、皇女殿下」
ふいに背後から声がしたので、皇女ははっとした。ここで話しかけられることは想定外だったの、それまでの彼女らしくもなく、わずかな戸惑いののち、ようやっと応えがかなった。
「“勇敢なる騎士(ムーティヒ・リッター)”の元締めとして、当然のことをしたまでです」
「ほう。“騎士(リッター)”が救うのは、か弱き人間とばかり思っておりましたが、どうやら対象はそれだけではないようですね」
「生きとし生けるもの全てに慈しみを与える、それがわが社の方針です。どうやら、あなたにはご理解いただけなかったようですが」
その言葉は、ドイツ国民が聞けば涙を流して喜びそうなほどに慈悲深いものであったが、それを発する皇女に、相応の迫力はなかった。彼女の声はただ淡々として、虚しいだけだ。
そして、それに対して悪魔の声はと言えば、抑揚も大きく、空々しいほどに、何とも生き生きとしたものだ。
「ああ、そのようなことは決してありませんよ、皇女殿下。あなたが人間になさっている数々の慈悲深き行為は、私のような悪魔の耳にも数多く届いております。その慈しみがいかに深く、限りないものであるかも、私自身は、よくよく理解したつもりでいたのですが」
「そうですか。それは、光栄とでもとっておきましょうか」
言葉とは裏腹に、彼女の声は少しも笑ってなどいなかった。交渉は済んだというのに、どこまでもまとわりつく悪魔に、うんざりしたのかもしれない。
「残念ですが、お話はここまでにいたしましょう、悪魔さん。交渉はもう済みましたよ。これ以上、あなたとお話しすることはありません」
「そうですか。それは実に残念です。恐れ多くもドイツ帝国の皇女殿下にお会いできたことを、とても光栄に思っていたのですが、こんな短い接見しか得られないとは。今度はぜひ、もっと別のところでお会いしたいですね」
心にもないことを・・・・とは心の中で思いながら、彼女は、再び恭しく腰を折った悪魔を見下ろし、淡々と告げた。
「ええ、そうですね」
そうして彼女は、悪魔に背を向け、鳥たちを満足させていた男のもとへ、歩み寄っていった。
その背後で、静かに悪魔の恐ろしく触手が伸びていたことにも、気に掛けず――

――ザンッ!

「申し訳ありませんが、主へのご狼藉は、国家の威信にも関わりますので、くれぐれもおやめいただきたく」
男は、彼女に手をかけようとしていた悪魔の腕をつかむと静かに警告していた。
またしても手出しを邪魔された悪魔は、舌うちせんばかりの勢いで、男を睨みつけた。しかし、それも一瞬のこと。
「いえいえ。私はただ、皇女殿下に一言お礼を申し上げようとしただけですよ」
いつの間にやら、その表情にはすっかり邪気というものが消え失せ、ただ恭しい執事の微笑が浮かんでいただけだった。
また、皇女はため息をついた。しかし、それ以上には何も言うことはしない。
「そうですか。では、いきましょうか、ジェルマンさん」
そうして、二人の後ろ姿を見送るセバスチャンと、徐々にその距離を広げていった――
――かのように、思われた。が――

しばらく歩くと、皇女は、気まぐれのように振り返り、再びセバスチャンの顔を見た。
先刻の、あの、挑戦的な目だ。
そして彼女は、また、静かに話し始めた。
「ああ・・・・ところで悪魔さん。お時間がよろしければ、実は私から、一つご提案があるのですが――」




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