そういえばそうだ、と今更ながらに気付いた。「距離が違いすぎるのではないか」と。
だから、変えてやる、と本気で思った。



女心と野望の一歩



 火影の代も変わり、今まで以上に任務の数が多くなった今日この頃。
そんな時に事件は起こった。


「イノ、来ないわねぇ」
「シカマルもだってばよぉ」
「……もぐもぐ」
「遅っせーなぁ。いつもならもう来てる頃なんだが」
煙草をふかしながら言うアスマに、ナルトもサクラも頷く。
 本日は7班・10班の合同任務。内容は相変わらず落し物探し。
時間的には待ち合わせよりまだ15分ほどしか経っていないのだが、普段は集合時間前に来るはずの山中イノ・奈良シカマルの2人が来ないのにおかしい、と全員が思い始めていた。 いつも一緒にいるチョウジに聞いても、彼は相変わらず食べ続けながら、知らないと答える。
「どうしたのかしら?」
「シカマルは寝坊だとしても、イノが来ないのは変だってば」
「…っつーか、後ろはいつまでやってんだ?」
「放っとけばいいわ。アスマ先生」
彼らがのんきに待つ後ろでは、サスケとカカシによる戦闘が行われている。珍しく早く来たカカシがナルトにセクハラをしようとしたため、それにキレたサスケがクナイを投げつけ、ナルト争奪の戦闘が始まってしまったというわけだ。だが、周りにとってはいつものことなので、アスマが巻き添えを食わないよう結界を張り、そこでのんびりと待っている。
「あ、あれ。イノじゃない?」
チョウジの言葉に3人が顔を上げた。戦闘が行われるのとは逆の方向から紫の装束に淡い金色の髪の少女が小走りにやってくるのが見える。
「本当、イノ、ね。…っは!サスケ君にくっつかれる!」
サクラが慌てて結界を飛び出す。イノはそれに気付いて彼女に小さく手を振る。
「おはよう、サクラ」
「おはよ、イノ。ずいぶん遅いじゃない」
「んー、ちょっとね」
「さっそくで悪いけど、サスケ君今あの状態だし、くっつかないでね!!」
まくしたてるサクラに、しかし、イノは力なく笑って言った。
「期待に応えてあげられなくて残念だけど、そんなことしないわ」
あたし、もうサスケ君を追いかけるのは止めたの。
そう言って、驚くサクラをその場に残して、彼女は結界内に残された3人に近づいていく。
イノが向かった先は………金色の髪の可愛らしい少年。
「ナルト」
「ん?何だってばよ?」
「…責任、取ってくれる?」
「は?」
真剣な顔で言うイノに、ナルトは呆けた表情で聞き返す。そんなイノにアスマもチョウジも、駆け寄ってきたサクラも呆気にとられる。
「だから、責任取ってくれる?って言ったの。」
「な、何の責任、だってば?」
「ひどい!!昨日あたしにあんなコトしたくせに!」
「はい?!」
泣きそうな顔のイノ。サクラは思わず声をあげ、アスマは銜えていた煙草を地面に落とす。
ナルト当人は少し考えて、まだ怒ってたのか、と小さく呟いた。どうやら身に覚えがあるらしい。そして考えるように片手で自分の金色の髪をかき回して、イノに尋ねる。
「え…と、どう責任とればいいんだ…ってばよ?」

「………結婚、してくれる?」

「…………けっこん?」
「そう。あ、血の方の『血痕』じゃなくて、愛する人と将来を誓い合う方の『結婚』だからね」
誤解しないようにと、イノはよく分からない言い方でナルトに言う。その爆弾発言に、しばし経った後。
『…結婚っっ?!!』
その場にいたアスマとサクラだけでなく、戦いを繰り広げていたカカシとサスケも、大声で叫んでしまった。
唯一変わらずお菓子を食べ続けるチョウジは、一人イノに話しかける。
「結婚するの?」
「うん。チョウジ、祝福してくれる?」
「いいよ」
「ありがとう!」
「ちょっと!イノ、結婚って、何でナルト?じゃなくて!あんた自分が何歳だと…」
「あー、イノ。またずいぶん突然な話だってばね」
「そう、かしら?」
「結婚ってマジ、だってば?」
「もちろん!それとも、あたしじゃ嫌?」
目を潤ませ顔を近づけて言う彼女に、ナルトは優しく笑う。ヒナタならともかく、何故今まで特に何も接点のなかったイノがナルトに結婚を迫っているのかは、全く気にしていないらしい。
「そんなわけないだろ」
「じゃあ、いいのね?!」
「あぁ」
そんな問題なのか?!とか、年齢とか親の承諾とか他に問題はあるだろ?!とか、周りの人間はそういった疑問抱いたが、それよりもあのイノがナルトに愛の告白をしたことと、 彼らの間に何があったのか、が気になってしょうがない。サスケとカカシなど車輪眼全開で殺気立っている。
「…ってか今から?」
「ナルがそう言うなら、今からでもいいわよ。朝そう言ったら、パパもママも応援してくれたし」
「なら、オレは別にい…」
「よくねーよっっ!!!」
どこからともなく大声が飛んできた。それと同時に、イノ目掛けて一筋の赤い光が振り下ろされる。
キンッと金属がぶつかる高い音が、あたりに鳴り響く。
「あっぶないわね…シカマル」
「てめぇ………いつかはやると思っていたが、本当にやるとはなぁ!」
「引っかかる方が悪いのよ。ってかナルに当たるところだったじゃない!馬鹿シカっ」
「だーれーが、バカだって?」
突如現れたシカマルの刀の赤い刃を、イノがとっさに持っていた戦輪で受け止めていた。両者の力は拮抗しているのか、押し合いはその位置から全く動かない。
「よっ、シカマル。おはよ。何かボロっちいね」
やけに冷静なナルトに言われてみて、サクラはようやく気付いた。
シカマルの服はあちこちに汚れや破れがあって、体にも数多の傷が見える。まるで1週間くらい山で修行したかのようだ。
「おう。外でたら、見事に罠だらけでなっ…おかげでここに来るのに時間食っちまったぜ」
「ちっ、もう少し時間かかると思ったのに!折角最新作の実験物残してきたのよっ」
「おー、アレだろ?あの食人植物第6弾!倒すと時間かかりそうだったから放ってきたけど、おかげで死ぬかと思ったぞ」
「オーホッホッホ!アレに勝てないようじゃ、まだまだ修行が足りないわねぇ」
「あぁ?本気で戦ったら俺に勝てないくせに」
「…なんですってぇ?」
周りを放って、段々と張り詰めた空気は悪化していく。お互いに向けた殺気は益々強くなっていくばかりだ。
しかもそれは周りに影響が出始めていて、サクラとサスケはその殺気に当てられ動けなくなり、アスマとカカシは身をこわばらせる。
「第一、ナルトに結婚を申し込むなんざ、10年早ぇんだよ」
「あ、やっぱり盗み聞きしてたわね」
「里全部が俺の管轄内だからな」
「あっそ。でもね、結婚しようって言ったら、ナルトはいいよ、って言ってくれたわよ?」
「脅迫まがいのことを言ったからだろ。大体、てめぇの言う昨日のあのコトは『ナルトがイノの白玉ぜんざい一口横取りした』ってだけだろうが!」
「むっ!脅迫じゃないわ。ナルにそんなの通用しないもの。あ・た・しを愛してくれてるからこそ、O.K.くれたんだから!」
「女には誰でも優しいからだろ!」
「違うわよっ。……まぁ、ちょうどいいわ。あたし、前々からアンタとは決着をつけなきゃと思ってたのよねぇ」
「おぉ。めんどくせーが、俺も同感だ」
「…………」
「…………」
「「覚悟っ!!」」

こうして、観客たちの目の前で第……何回目になるかはわからないナルト争奪戦の火蓋が切って落とされた。



「ナルト。イノの言ってたあのコトって、何か気付いてた?」
「多分そうだとは思ったよ。白玉取った時のイノの顔、悔しいそうだけど何か良いこと思いついた、って感じだったし」
「じゃあ、イノの企み知ってたんだね。シカマルが会話を聞いてたのも」
「うん。だけど、止めるのもなんだし、まぁ言われて嬉しかったし、それに…シカがどんな反応するのか見てみたかったしね」
「からかってたもんね。…ってことは結婚は嘘?」
「さぁ?それはどうだろ。……結局今はまだどっちが本命か、なんてオレにもわかんないから」
「でも、イノもシカマルも好きでしょ?」
「あぁ。大好き、だよ。誰よりもね」
誰もを魅了するような、とびきりの笑顔でナルトは言う。 この騒動の後、ナルトとチョウジの間でそんな会話がひっそりと交わされていたそうである。



それ以降、イノはサスケに見向きもしなくなり、ナルトにべったりとくっつく姿が見られるようになった。

山中イノ、13歳。………彼女の将来の夢は、今も昔も、ライバルを押しのけてナルトのお嫁さんになること。
そのためには、どんなことでもする女である。



〜あとがき〜
ただ、イノちゃんの「責任取ってくれる?」っていう台詞が書きたかっただけです。
珍しく短時間で書き上げた一品。考えた時間はおよそ10分ほど(笑)思い立ったら即書け、です。
しかし、どうやってごまかすんでしょう?(そこまで考えてなかった…;) 時間としては、木の葉崩しが終わって5代目の就任式が終わったくらいです。
















↓下からはおまけ


 言い切った瞬間、ふっと2人は姿を消した。時々金属のぶつかる音が火花と共に聞こえたり、水や火が宙に現れて消えるところから近くにはいるらしいが、 全く以ってその動きは見えないので、カカシたちは驚いたが何も言えない。
その様子を見ていたナルトとチョウジは、喧嘩を始めた2人に溜息をついた。
「あーあ。また、だね。」
「……後で何とかすっかな。さ、てと」
ナルトはぴょんと音が聞こえそうな仕草で立つと、ぼけっとしていたアスマの服の裾を掴んで引っ張る。
「アスマせんせ!早く任務やろうってば」
「ん?あ、あぁ…だが」
「放っといてもだいじょーぶ、だってばよ?な、チョウジ」
「そーだね。早く任務終わらせて帰りたいし」
「…お前らがそう言うならいいけどな;」
「えっ、あの2人放っておくの?!」
「そのうち止めるでしょ」
「…それでいいのか?」
さすがのサスケも恐々と聞く。それにナルトは明るく答える。
「いいんだってばよ。それに…」
「ナールト!ねぇねぇ、あの2人一体何者なの?あの刀と戦輪、どっかで見た気がするんだけど」
隙をついて、ナルトの後ろからカカシが抱きついてきた。ナルトはそれに嫌そうな顔をして、引き剥がそうとする。
「うわっ!カカシ先生、暑苦しいってば!」
「「カカシ(先生)!ナルトから離れろ(離れてください)!!」」
「やーだね………な、なんか首筋が冷たい;」
いつの間にかカカシの後ろには、戦っている筈のイノとシカマルが立っていた。しかも2人揃って彼の首に己の武器を突きつけている。

「そういやぁ、害虫駆除のほうが先だったなぁ」
「そうね。あたしもすっかり忘れてたわ。喧嘩する前にコレを何とかしなきゃねぇ?」

「い、いやぁ。君たち、何を言ってるのかな?」
カカシは嫌な汗を背中に感じながら、上擦った声で言う。2人が後ろに立っているので、表情は見えない。が、サクラやサスケの顔の引きつり具合からして、相当怖い顔をしているようだ。
ナルトが一つ溜息をついてカカシを体から引き剥がす。それを見ていたアスマが、煙草の煙を吐き出して、一言。
「…カカシ、ご愁傷様」
カカシの顔が泣きそうなものになっていく。そこへナルトが2人に笑いかける。
「やっていい…てばよ」
「「了解」」
「…ぎぃやぁぁっっっ!!」
特大の悲鳴をあげ、2人の鬼に追いかけられて、カカシは遠くへと全力で走っていく。
それを見送ったナルトは、その場の全員ににっこり笑ってみせた。
「さて、任務するってばよ」
チョウジと一緒に落し物探しの任務に取り掛かっていく。
さすがのサクラとサスケも、カカシのその様子には何も言う事はなく、黙々とナルトたちと一緒に任務をこなしていった。


駆除が終わって帰ってきた2人の機嫌を直すために、ナルトが頬にキスしてやったのは、…チョウジ以外誰も知らない、秘密である。