草原でのんびりひなたぼっこにお昼寝。
そんな日があってもいいのかもしれない。



たまにはこんな日



 その日、森の奥で過ごす昼はとても静かだった。
冬の終わりを告げるように陽気は暖かく、さわやかな風が森を駆け抜ける。ごろりと横になった草もやわらかい。
「…ひまだな」
呟いても返す声はない。ナルトは今一人きりだ。

 ナルトがいるのは「霧幻の森」と呼ばれる、木の葉の里最西端にひろがる巨大な森だ。年中霧が立ち込めている上、入ってもいつの間にか外へ出てしまい、 誰もが決して中へと入れないことからその名がついたと言われるこの森に、近づこうとする里人はまずいない。だから里に忌み嫌われる彼にとって、 自分を中へと受け入れるこの森は心安らげる場所であった。
「めずらしいな。こんなにひまなの」
いつもはもっと忙しい。朝から昼まではドベで明るいルーキー下忍として仲間と行動し、夜は最強と謳われる木の葉暗部総隊長「緋月」として難度の高い任務をこなす。
それに医療局で働く上忍としての仕事もあるし、未来の火影として3代目火影を手伝うこともたびたびある。
しかし今日は1日めずらしく、下忍の任務も暗部の任務も入っていない。それどころか、上忍としても火影代理としても呼び出しがなかった。
「気持ちいいー」
見上げた空が青い。視界には一足早く咲いた白い花が一輪ゆれている。晴れた今日は、森へ出てきて正解だ。
そういえばこんなにゆっくりとしているのは久しぶりだ、と思う。下忍になってから益々仕事が増えたため、ここ数日はろくに睡眠もとっていなかった。
(少し寝ようかなぁ…)
ナルトの空のような青い瞳がまぶたの裏に隠れる。しばらくして、呼吸は次第に規則正しい寝息へと変わり、彼を夢の世界へと誘った。


「あら、寝てるわ」
「ほんとだ。気持ちよさそう」
「俺たちが近づいても起きないなんて、めずらしいな」
 少し経って眠るナルトに近づいてきたのは、2代目いのシカチョウトリオだった。彼らはナルトの秘密を知り、暗部として共に行動する仲間でもある。
それ故この森も彼らが中へと入ることを許していた。
「せっかくお弁当持ってきたのにぃ」
持ってきた大きなバスケットをかかげてふくれっ面をするいの。今日は三人も休みだったらしく、たまには外で昼食でも、とがんばって作ったようだ。
「でも良く寝てるね」
「ホント、絵みたい」
チョウジの言葉に、彼に好意を寄せるいのは少しずれた言葉を返す。ころりと変えた表情はまさに恋する乙女。
だが、いのはそれが例え自分の目に恋フィルターがかかっていても、真実であることを知っている。
傍から見ていて、静かに眠るナルトの姿は、黙っていれば美少年そのもの。いつもは結っている長い金糸は解かれて、草原の緑との鮮やかなコントラストがとても綺麗だ。
「いいじゃねぇか。このまま寝かしておこうぜ。」
シカマルが少し笑って言う。気配を抑えた彼は、ちゃっかりナルトの隣に座っており、長い金糸をさらりと撫ぜている。それが気持ちいいのか、猫のようにシカマルの手に擦り寄ってくる。
((…かわいいっ!!))
起きていたならありえない甘えた行動に、いのもシカマルもドキッとして顔を赤くする。
「って、シカマルばっかりずるーい!!」
「こらっ!押すな、いの!騒ぐと起きるだろうが!」
「あたしもナルにさわりたいの!ちょっとはどきなさいよっ!」
「おわっ?!っだーかーらー、暴れるなって言ってんだよっ!」
バスケットを放り出してシカマルをのけナルトに触ろうとするいのと、退くかといった風に彼女と押し合うシカマル。初めは小さかった声も次第に大きくなっていく。
横で金色の天使争奪戦が始まるのを見ていたチョウジは、
(そんなことしたら余計に起きるんじゃないかな…)
と思いつつも、いつものことなので止めない。かからぬ火の粉は何とやらだ。
そして、いのが放り出したバスケットを上手くキャッチし、「おなかすいたなー」と呟いた。


彼らの争いが終わるまで、あと数分。
それが、すっかり目が覚めた彼らの金色の天使によってもたらされたことはいうまでもない。

その後、やわらかな草の上でバスケットのお弁当をひろげ、楽しそうにする4人がいたこともまた事実である。


〜あとがき〜
忙しい毎日の穏やかな一幕。
そしてこの後またシカマルといのによるナルト争奪戦が始まります。
でもいつものことなので、当然ナルト本人とチョウジは傍観者としてのんびりしながら、晩御飯のメニューを考えるんです(笑)
そんな感じでウチのナルトたちの物語は進んでいきます。
こんなのでよければ、またお付き合いくださいませ。
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。