よく晴れた、新月の夜。星だけが輝く夜空は、どこか神秘的な雰囲気を醸し出す。
そのおかげで、人気のない公園も薄暗い闇に包まれている。それは公園に設置された池のほとりも同じ。
しかし、池に映る夜空には、真っ赤に染まる満月が映っていた。
ゆらりと風もないのに月だけが揺れ、次の瞬間には、その湖面に人影があった。
背の中程まであるセピア色の猫毛は柔らかな波を描き、両の瞳は、底の見えないステンドグラスのごときアースブルー。
身に纏うのは、黒を基調にした、チャイナ服に似たワンピースだ。
襟元からぐるりと縁取った真紅の紐は背中で大きく蝶結びにされ、同じ紐で組み編まれた花が要所を飾られている。ゆったりとした白の両袖には、二の腕の辺りに黒革のバンド。裾から覗く鮮やかな赤色のプリーツミニスカートに、足元は膝丈まである黒のブーツで固められている。少しゴツい気もするが、それがまた、白く細い脚とのコントラストを際立たせている。
異様な部分があるとすれば、鈍く光る銀色の鎖が中途半端に垂れ下がった黒の首輪と、少女を守るように纏わりつく白い光だろうか。
だが、それを差し引いてもお釣りが来るほどに、容姿も顔の造形も纏う雰囲気も、圧倒的な美しさを持った少女だった。
「………エンの、バカっ」
不機嫌な声で、少女は今側にいない主人を詰った。
『それ以上言ってやるな。43回目ともなると、馬鹿なのは十分わかったから』
少女とは別の、優しい声が話しかけてきた。周りに彼女以外の人影はない。けれども少女は、ごく自然にその相手の名前を呼んだ。
「リュウ…ごめんな」
『私は別に構わない。それより、これからどうするつもりだ?』
纏わりつく白い光が集まり、少女の隣に新たな人影を成した。
少女と全く同じ甘く整った顔立ちでありながら、長い黒髪にルビーの瞳を持つ、少女よりは年上の青年。だが彼の纏うのは、彼女と正反対の白い長衣。
「…しばらく、隠れ家に籠る。学校は行くよ。ヒマだし」
『それはいいが、生活費や高校の学費はどうするんだ?そろそろ受験だろう?』
「あの人らの遺産があるだろ。ご飯は別に食べなくても平気だし、学校は公立なら払える位はあったはず」
『まぁ、元々公立に行く気ではあったし、いざとなれば頼れる伝手はあるからいいが…』
渋々ではあったが守護者から許可が出た(というか彼が少女の決定に逆らったことは一度もない)のを幸いに、少女は拳を握りしめる。
「今回ばかりはオレも頭にきたっ。誰がしばらく家に帰ってやるか!!」
固い決意を口にし、少女はふわりと湖面を蹴って暗い空を渡った。
『…何事も起こらなければ、いいがなぁ』
何よりも愛しい子供を怒らせた現・親友に対し呆れた顔をする。が、それよりも、他人から寄せられる想いに対しては皆無なくらい鈍感な少女の、無自覚かつ厄介な体質を考え、守護者の青年は気付かれないように溜息を零した。
2人が去った後の湖面には、空と同じ月のない星空が映りこんでいるだけで、あの赤い月はもう映っていなかった。
マイ・フェア・レディ
〜家出娘と守護者の変革〜
つまらない、と。怒鳴る綾の声を無視して、二海堂昶は校舎を後にした。
なんとなく見上げれば、晴れ渡る空の青さが目にしみる。少し汗ばむくらいの陽気は心地よく、吹き付けてくる風もない。
「…平和な日々だなぁ」
歩きながら昶は、くわぁっ、と欠伸を噛み殺した。その耳元で、くすりと小さな笑い声がする。
『また、学校をサボったのか?』
テノールよりはやや高めの、昶によく似た、だがそれよりは随分と優しく柔らかな声。
彼の周りには誰1人、人影どころか生き物の影すらない。しかし、昶は別段不審に思うことなく『彼』との世間話に興じた。
「綾が来たから、終わり。授業受けてもツマンナイ」
『せめて受けるフリだけでもしないと。出席日数、危ないんだろ?』
苦笑する『彼』に、彼は肩を竦めてみせた。
「最低線は保ってるよ、リュウ。だって、学校の授業内容って、全部習ったものばっかりなんだぞ」
『アキは昔から物覚えが良い、賢い子だったからなぁ。それは重々承知しているが…千原先生にこの間呼び出しくらったことは?』
「忘れた。大丈夫だって。いつものことだから、先生も諦めてるよ。あとはいつも通り、試験の成績次第で何とでもなる」
『まったく、先生方も可哀そうだな』
「その話はもういいだろ。せっかくヒマな学校から逃げてきたんだし、これから…」
どこへ行こうか、と続く筈だった言葉は、不自然に途切れた。
「……《影》か?」
馴染みのある気配に、囁くように呟いた昶は足を止めた。
『足を止めるな。…間違いない。だが随分と弱いな』
しかもこの気配は、と『彼』は戸惑いを見せた。そんな様子にめずらしいと思った昶だったが、言われた通り何もなかった風に歩き出す。もしこちらが狙いなら、足を止めることで向こうに気付いていることを悟られてしまうのは避けたいからだ。
『いや……だが、アイツはもっと……』
唸り続ける『彼』にどう声をかけようかと考えていた、その時だった。
「すみません。ちょっとお話、よろしいですか?」
横合いに伸びる路地から、声をかけられた。
そちらに目をやり、長い銀髪を三つ編みにした1人の青年がいることを視認した。
しかし、衣装はもちろん帽子からサングラスまで全身黒ずくめ。ヤバい宗教家かマフィアの仲間か、という出で立ちをした男が怪しくないはずがない、が。
「よくない」
怪しむより先に、昶の口が勝手に答えていた。
『……し、しろがね…か?』
躊躇いがちに、『彼』が相対する青年の名を紡いだ。その名前には、昶も聞き覚えがあった。
(シロガネ、ってーと……リュウの対になる、シンの直結王族?)
『あぁ。私の、友人でもあるが…その、雰囲気が違うような…』
友人と言う割に随分歯切れの悪い『彼』にもう少し話を聞きたいが、目の前の彼を放ってするわけにもいかない。
白銀(多分)は昶に対して、柔らかな苦笑を向けた。
「即答ですか。手厳しいですね」
「…生憎、初対面の人とは話すらする価値はない、というのがウチの家訓でな」
視線も合わさず、警戒心を露にその場を去ろうとする。だが、白銀の次の言葉に彼は引き留められた。
「まぁまぁ。そんなことは言わずに」
二海堂昶君、と彼は確かに昶の名を呼んだ。振り向きざまに、綺麗に整った顔を睨みつける。
「言い忘れたが、ストーカーとは顔すら合わすな、がその後に続く」
「…さすがに、それはヒドすぎませんか?」
傷ついた顔をして見せた白銀だったが、彼はすぐに酷薄な笑みを浮かべた。
「だって私は、ずっとキミを探していたんですから」
ぞくり、と背中が泡立つ。サングラスの奥に隠れた青い瞳は、温和な笑みに変わっても冷たいまま。
『あの目の冷たさ。間違いなく、白銀、だ』
「はじめまして。ワタシは白銀と言います」
『彼』の言葉を裏付けるように、目の前の青年は自分の名前を告げる。それから、話がしたいと言い、昶の同行を求めてきた。
「断る。ついさっき会ったばかりのあからさまにアヤシイやつに、さらにアヤシイ事態に巻き込まれそうなのがわかって、ついていくほどバカじゃない」
ちらと白銀の足元にない影に目をやり、ふい、と顔を背ける。その仕草だけで白銀は、昶が自分が人間じゃないことを見抜いたのを悟った。
「困りましたねぇ。ワタシにはキミが必要だし、信用してほしいんですけど」
「他を当たれ。アンタに付き合うほど、ヒマじゃない」
今度こそ話は終わりだとばかりに、昶はそこから立ち去ろうとした。先程から背筋に寒くて仕方がない。こんな時は、あまり良いことが起きないのをよく知っている。
しかし、白銀は諦めたわけではなかった。しばし考え込んでいたかと思うと、突然こう言った。
「それでは今日の夜10時、キミの通う学校に来てください」
呆気にとられた昶は、白銀に食ってかかる。
「は?何でそうなんだよ?!」
「今はヒマじゃないんでしょう?でしたら、夜なら平気ですよね」
来るように念押しして、白銀はようやく昶に背を向けた。その背に昶は、誰が行くか、と呟く。
「いいえ。キミは来ますよ」
「…だから…」
「来ますよ」
微笑みの消えた青い瞳が、昶に強く突き刺さる。その冷たさは、瞬間にして身体の芯を氷のように冷えさせる。
ざぁっと強い風が吹き、目を瞑ったその一瞬の後、白銀の姿はどこにもなかった。
茫然と立ち尽くす昶だったが、ややあって『彼』が呼びかけたことで我に返った。
「リュウ……なんだか、嫌な予感がする」
『あぁ。今日は、家から出ない方がいい。もう帰ろう』
『彼』に促されるような形で、昶は家へと歩き出した。数十分前のことなのに学校を出た時とは違い、足取りがやけに重い。
『白銀は、悪いやつではない……が、私の知るアイツは、ヤツと同じ、己の目的を優先させる男だ』
もう会うこともないだろうが気をつけろ、と『彼』は硬い声で昶にそう忠告した。
ところが、白銀の言葉は思いがけない形で実現することとなった。
「おい綾、しっかりしろ!賢吾も!!」
属性が変わりつつある学校の廊下で、振り下ろされた刃を昶は綾の木刀でかろうじて受け流した。
時間は、午後10時手前。彼の後ろには、気絶した綾と賢吾。周りを囲みつつあるのは、コクチと呼ばれる黒い影の生き物たち。
『これでは埒が明かないぞ、アキ!』
「ンなこと言ったって、ここで解くわけにもいかないだろっ。かと言って、こいつら放ってくのもできないし。第一、俺は悪くない!!」
コクチの芯よりやや外れた部分をわざと木刀で突いて、襲ってくるやつらを弾き飛ばしながら、昶はボコボコにされて床に転がっている賢吾を睨みつけた。
そもそも家から出ないと言った昶が、何故今この時間に、学校にいるのか。
事の起こりは、数時間前に賢吾が遊ぼうと誘いに来たところまで遡る。
その時点ではまだ8時過ぎだった。賢吾は昼間の内に昶に会わないと、たまに夜こうして押しかけてくる時がある。大抵は遊びに行くか断るか無視するかのどれかであっさり終わるのだが、今日の彼はいくら断ってもしつこかった。
そのため、仕方なく付き合って馴染みのゲームセンターに行った。行ったところで、いつも1時間も付き合えば十分だ。
ところが、そこで予想外の出来事が起こった。昶たちが帰ろうとしたところで、綾に出くわしたのだ。
待てっ、と追いかけてくる彼女は、どこまでも追いかけてきた。木刀を振り回し、鬼の形相で。
そんなこんなで2人は彼女に捕まり、だが彼女から、制裁の代わりに学校へ忘れ物を取りに行くのに付き合ってほしいと頼まれたのが、ちょうど30分前の話だ。
『だからあの時、賢吾をボディーガードにさせて、せめて校舎前で待てばよかったのに』
綾を背負い、賢吾の襟首を引きずって入口へ行く。
「けどお化け嫌いの綾が、頼りない賢吾だけじゃ不安だって言っただろ……げっ、折れた」
『後で弁償するしかないな。とにかく、今は急いで外に…いや、待て』
ようやく玄関に出たところで、結界の中に入り込むのを感じて足を止めた。
目の前では、1つの人影が、コクチの群を背後に佇んでいる。
「やぁ。これはこれは、昶君……時間通りですね」
「しろが、ね…?」
温和な笑みを浮かべる白銀から目を離さず、昶は綾をそっと下ろして(賢吾は手を放すだけ)彼を睨みつけた。
「俺がこんな重い目にあったのは、お前のせいか!!」
「私のせいじゃありませんよ。来てください、って言っただけじゃないですか」
「日本に来るなら、言霊というものを知ってから来やがれ」
不機嫌な様子で、帰る、と言ったが、白銀はそれはできないと答えた。
「磁場の関係か、この時間、このあたりの境界線が非常に不安定になるんですよ」
「それがどうした。俺は帰る。こいつらは意識ないけど、放っといても結界内にいる以上、コクチに寄生されることも襲われることもないし」
「…え。昶君、どうしてあれがコクチだと知って…?!」
動揺する白銀に、昶は彼を無視して結界を抜け出る。一歩外に出れば、地面はスポンジのように柔らかいが、昶は安定した場所だけを踏めばそれ以上沈まないことを知っていたため、平気でコクチの攻撃を避けながらそこを歩く。
しかしそのことを知らない白銀は、血相を変えて、昶の後を追った。
「それ以上行くと、影に引きずり込まれますよっ」
「知ったことか!俺は、他人に利用されるのが、大嫌いなんだよ!!」
白銀の声も、掴もうとした手すらも拒絶して、昶は走り出す。
だが突然、劉黒が警告を発した。
『アキ、そこは穴が…っ』
「え……ぅわ」
ざぶん、と身体が水に放り込まれるような感覚が押し寄せてきた。
昶の体が境界の下へ沈みきった、瞬間。
通常ではありえない変化が、彼に起こった。
身長が少し縮み、細い体がますます細くなり、丸みを帯びていく。
服装も今まで来ていたTシャツとジーパンではなく、黒と真紅を基調としたチャイナ風のワンピース。
セピア色の髪は背の中程まで伸び、灰色がかった青の瞳が、完全なアースブルーへと輝きを増す。
ジャラリ、と首輪から垂れる鎖が重い音を立てた。
「マズっ。強制解除しちまった!」
《彼女》の仄かに赤く色づく唇から、アルトよりは高くソプラノにしてはやや低い、澄んだ声が零れる。
慌てる彼女に纏わりついていた白い光は形を成し、隣に白い長衣を纏う黒髪の、だが造形はまったく同じ青年を作り出した。
彼こそ、昶がリュウと呼ぶ『彼』――生まれた時からずっと昶についており、名を『劉黒』という光人の直結王族だ。
彼は一度死んだ身であり、昶はその彼の因子を継ぐ者であった。ところが昶は、生まれた時から《力》だけが覚醒してしまい、肝心の《記憶》は『劉黒』という意識の残滓…いわば幽霊と成ってしまった。
それだけならば、昶は人間でなければおかしいはずだが、今の昶は影人…レイとは真逆の存在であり、性別も常時とシンとでは違っている。
実は、昶の性別は元々『女』であった。しかし幼い頃、彼女はある事情から、焔緋というもう1人の影の王に出会い、彼と契約を交わした。
だがシンへの変換時、因子に何か影響があったのだろうか。彼女にしか見えなかった筈の、劉黒の実体化ができるようになっていた。その上、代用影なしで常時見える人間の姿を取れるようにもなったが、代わりに光人の影響が濃く出てしまい、性別が変わってしまうという特殊体質となってしまっていた。まぁ、それは結果的に昶を見守る大人たちにとってみれば、外の世界で学ぶためには良いことであったのだが。
昶は劉黒の差し延べられた手に、自然に自らの手を重ねる。
「怪我はしなかったか?」
「へーき。コクチの刃が来る寸前に、自分で潜ったから」
身を案じる劉黒に支えられるように胸元へ抱き寄せられ、自然と彼を見上げる形になる。
「さて、どうしよう。ここに長くいると、下手をすればエンに気付かれるし」
「今更だとは思うが、ここからなら帰ることもできるぞ?」
「…まだ、帰らない」
不貞腐れた表情を見せる昶に、劉黒は恋人を宥めるような優しい手付きで髪を透いてやった。あまりの気持ちよさに、昶の眼が猫のように細くなる。それが可愛くて仕方ない彼であったが、今はのんびりしていられる状況ではない。
「白銀に、お前が焔緋の《子》とわかると厄介なことになるな」
苦く呟いた劉黒に、真剣な顔をした昶はしばし考え、だが、すぐに自分の考えを口にした。
「一旦、契約を封印するってできる?」
「それはできるが…その後は、どうするんだ?」
「このまま影をちょっとだけ通って、白銀のいない別の場所から外へ出る。そこで封印を解いて、それからは…どっか行くしかない」
あまり表情の変わらない様子だったが、彼女の守護者である劉黒には、寂寥感をひた隠しにしているのがすぐにわかった。劉黒がついていれば、封印とは言わず破棄もできる。それをしないのは、昶に帰る意志があるからなのだ。
劉黒としてはあまり気が進まないが、我が子同然に愛する彼女の頼みでは断れない。溜息を一つ零すと、耳元で囁いた。
『聞け、かが内に咲く華よ。我は天地の調律者にして、光の守護者。紅蓮の種子へと時を戻し、再び主の命ある日まで、揺り篭の奥深く眠れ』
額に羽根のように軽い口付けが落とされ、そこに赤い光の花が一瞬だけ浮かんだかと思うと、すぐに溶けるように内へと消えた。
服装も性別さえも、シンに戻る前に、戻る。劉黒の姿も光の粒子となって、昶の内に消えた。途端に、体の先からじわじわと水が染み込むような、侵食される感覚に襲われる。上手く呼吸が出来ず、思った以上に息苦しい。
『今、お前の影はない状態だ』
「早く出ないとっ、消滅、するな…」
『…アキ。いざとなったら、強制的に戻すからな』
いつになく本気のその声に、覚悟を決めて頷いたその瞬間。
誰かがぐいと襟首を掴み、昶を影の外へと引き上げた。
「まったく…っ。手間のかかることばかりしてくれますね、キミは…」
呆れと焦りの入り混じる表情の白銀に、昶は何故か胸が痛んだ。
「しかし、これは最悪の状況ですよ。こうなっては、もう方法は一つしか…」
「嫌だっ!!」
未だ拒絶する昶に、逆に白銀が怒鳴り返す。
「ではキミは死にたいんですか!!」
《そなたも、死にたいか?》
いつかの幼い光景が、愛するあの声が、脳裏に鮮やかに蘇る。
昶は、無意識に呟いていた。
「……死にたくは、ない」
「だったら、決まりですね」
こういう時くらいは信用してほしい、と言い置いて、白銀は杖を強く地面に突き立てた。
『聞け、そが内に眠る種子よ』
言葉と同時に、浮き出た幾重もの陣が昶を空に持ち上げる。別の強い力が流れこんできて、まるでそれを拒むように、体の奥が熱くなる。
『我は天地の調律者。我は万物の影。かの地より湧きたつ黒き炎よ。真闇の印を、ここに刻め』
全身を電流が走る。細胞がバラバラにされ、組み替えられるような痛みが襲ってくる。
それらが全て引いた頃には、昶の体にはいつもとは違う大きな変化があった。
襟元に赤い十字のワンポイントが入った白いシャツに、後ろだけが長いベストのような黒の上着。赤のハーフズボンに、これも真っ黒なコンバットブーツ。
衣装だけではない。纏う色彩も、艶やかな黒い髪に、ガーネットの紅い瞳と正反対の色へと変わる。取り巻いていた筈の白い光も、ない。
何より違うのは……男のまま、であった。
「…さて。調子は…よさそう…って何でそんなに暗い顔してるんですか?」
反射的に襲ってきたコクチを切り倒した昶の顔を見て、白銀は唖然とした。
だが、昶の方は彼のことなど完全に眼中になく、自分のことで手一杯だった。
「ど、どうしよ……」
『…落ち着け;まさかこう来るとは思わなかったんだ。何なんだこの状態は?!私の可愛いアキが、男のまま、だなんて!!』
「………あー…その前にこれを…」
『もちろん男のままでも十分愛らしいが、あ〜っ、その上実体化もできないしっ』
「…………(リュウが壊れた…;)」
「えぇっと、昶君?」
挙動不審な彼に、いい加減放っておかれるのも飽きた白銀が声をかける。
「ウッセェ!考えるのは、もう止め!後でやるっ」
「そ、そうですか…?」
「とりあえず今は協力してやる。そのかわりつべこべ言うのナシな!」
何かを吹っきった昶は、ハンティングナイフを持ちなおして、襲い来るコクチに構える。
「ワガママですねぇ」
そう言って、同じように獲物を構えた白銀は、嬉しそうに笑った。
「…しかし、二重契約なんてして、俺、大丈夫なのか?」
『知らん。今まで前例はないが…多分、直結王族の因子は特別製だからか?』
「………俺、もしかして、一生、帰れない…?」
『私はもしかしなくても、一生、話しかできないのか?!』
その後夜明けまで続けられた戦闘の中で、被守護者と守護者の間で、こっそりとこんな会話が交わされたとか…。
〜あとがき〜
…お待たせ…しすぎですかね…?
突然の新シリーズです。昶さんがレディで、最初からシンです。その上、劉黒さんがとうとう幽霊(半)卒業してます。そして…肝心の赤い人がいません(ォィ もちろん今後は出てくるんですよっ。でなきゃ困るんです。これはあくまで焔昶+劉の話ですから!
話は原作とアニメを足して2で割り余りがつきます。でもってほぼタイトル通りです。そんな話です。オリなキャラと設定が満載です。
ちなみに、白銀は原作よりの性格で進みます。だってこっちの方が、黒いし…;もちろん洸兄やら澤さんやらをはじめ、主要キャラは登場させます。
そんなわけで、ゆったりまったりお付き合いいただけると嬉しいです。
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