あたしの愛する人は、好意に対してちょっと…訂正するわ。かなり鈍感だ。それに加えて、ものすごくモテる。しかも気づかないんだから、
あたしやもう一人の幼馴染が苦労することは相当多い。
 だからあたしとしてはずーっとそばにいて、まわりを牽制してやりたいのだけど…なんなの、コレ?!神様はあたしに意地悪したいのかしら?
たとえ上層部でも神様でも、何が敵にまわっても!あたしたちは絶対認めないんだから!!



恋とは戦争なり



 それはアカデミーの卒業試験が終わり、秋休みも残るところ1週間をきった頃。
順調に修行もこなしながら日々を過ごしているイルカは、来週から新しく就く仕事のことで3代目火影に呼ばれて執務室にいたのだが、そこへ乱入してきたものがいた。
「「どういうことですか、火影様!!」」
「お、おぅ!シカマルにいのではないか。」
珍しく息を切らした2人組に、火影はどうした?と聞く。すると2人は彼を睨みつけ、執務机をバンッと叩いた。机の上の書類が何枚か床に落ちるが、気には留めない。
「どうしたもこうしたもっ、下忍の班分けのことです!」
彼らの用事は、どうやら先日上層部と火影の間で行われた毎年恒例の極秘会議で決定した、ルーキー下忍たちの任務班分けのことらしい。
「な、何でお主らがそれを知っとるんじゃ?!」
「「ナルトに聞きました!!」」
「(小声で)まだ言わんでよいことをっ………うむ。で、それがどうしたのじゃ?」
「どうしたって…火影様っ」
「「何で俺(あたし)がナルトと一緒の班じゃないんですかっ!!」」
見事に声を揃えて大声で言う。やはりかと思っていたが、それに慌てて火影はまず印を結び、防音効果を持つ結界を部屋全体に張る。これでどんなに大声を上げても外に聞こえることはない。
「おぬしら、場所を考えて言わんか!」
「今はどうでもいいです!それよりどうして、あたしと一緒なのがシカマルとチョウジなんですかっ!」
「しかも、よりにもよって、ナルトと同じ班に、春野サクラとうちはサスケを入れたそうですねぇ?」
大人もかくやと言わんばかりの剣幕で火影に迫る2人。その迫力はまるで烈火と流氷、対称の様であるが、到底子供には無理と思われるほどで、伊達に戦略部長と諜報部エースを名乗っちゃいないなと、イルカは思う。
 そして、のんびり観察してる間にも2人の抗議と火影の押し問答は続く。
「分ける基本は成績じゃ。いのはともかくシカマルはナルトについで悪かったじゃろう。それに、ナルトにはうちはの子供の護衛をしてもらわねばならんからのぉ。」
「そんなのあたしやシカマルでもできます!ナルトでいい理由になってません。」
「しかもあいつの担当上忍は、畑カカシじゃありませんか。あの変態をがどれだけ『ナルト』を嫌ってるか知ってるでしょう?!」
「そうは言ってものぅ。上層部の連中が言うには、里の中で万が一暴走したナルトを止めたり、うちはサスケを護衛できるのがあやつしかおらんそうじゃからの。」
「上層部の狸ジジィどもの言うことなんか、火影サマなら無視できるでしょ?」
「そ、そうもいかん。上には上の事情というのがあるんじゃ。」
「…とにかく、この班気に食わないんで」
「「今すぐ組みなおしてください!」」
「無理じゃ。お主ら、下忍の班分け発表まで、あと何日あると思ってるんじゃ?!」
「そんなの知ったこっちゃないです!」
「死ぬ気でやれば、人間何でもできます。」
「………よいかっ!!これは儂の一存だけで決められるようなことではない!上層部の意見も聞かなきゃならんのじゃぞ?!」
「「そんなこと知りません!!」」
侃侃諤諤かんかんがくがくとは、かくありき。口を挟める隙間すらない。彼らをよく知るものが見れば、口だけで済んでいるのが奇跡とも言うだろうが、 本当の彼らに出会ってまだ1月とたたないイルカにとってみれば、あの火影相手に彼らはよく噛み付けるな、と驚く限りである。
 しかし、いくら待ってもこの口論は終わりそうにない。仕方なくイルカは火影に退出許可を求めた。
「……あの〜、火影様。もう行ってもいいでしょうか?」
「じゃから!!…ん?そういえば、お主まだおったんじゃの。仕事の説明は終わったし、帰って構わんぞ。」
「で、では、私はこれで。」
ほっとした表情でイルカは廊下へとつながる扉の向こうへと消えていった。そこでようやく、後からきた2人もイルカが同じ部屋にいたことに気付いた。
「あー、疲れたのぅ。とにかく組み直しはできん。大体…」
「なぁ、じーさん。イルカ先生、何の用事で来てたんだ?」
「…お主らはわがま……は?イルカ?…おぉ、今度からの仕事の内容説明をの。」
「え?イルカ先生アカデミーやめちゃうの?!」
「いや、そうではなく…毎年任務の受け渡しを一人でやるのは大変での。今年からイルカにもそれをやってもらおうと思うのじゃ。儂の補佐としてな。ゆくゆくは未来の火影(確定済)を補佐する立場になってもらわなきゃならんのでの。」
もちろん非常勤としてアカデミーの教師をやってもらうがのぅ、と火影は嬉しそうに言った。だが、最後の言葉は彼らには届いていなかった。
((補佐………。ってことは…))
2人はある可能性に気付いた。
「イルカ先生なら立派に補佐を務められるでしょうね。」
「…そうよねぇ。人望あるし、しっかりしてるし。でも、研修とかあるんじゃないですか?」
「それなら問題はない。もう既に始めておる。」
「もしかして今回の下忍の班分けにも、研修の一環として参加させました?」
「む、まぁの。実際教師として卒業生たちを見てたものじゃから、中々良い意見が飛び出してきて助かったわい。」
「なら、将来は有望ですね。ところで、班分けの書類はどこに?」
「第1書庫の金庫の中じゃ。鍵はイルカに持たせ………って、何を言わせるんじゃ!!……む?」
聞き出すことを全て聞き出した2人は、既にその場には影形なく、誰もいなかったかのように消えていた。
それに唖然とした火影は3分ほどしてようやく、しまったぁーっ!と自分の言ったことに絶叫したが、張っていた結界によって外に聞こえることはなかった。


「イ・ル・カ・先生っ!」
火影の執務室を出て外の回廊を歩いていたイルカは、ふと自分の名を呼ばれて立ち止まった。
「いの………と、シカマルか。」
振り返ると先程まで同じ部屋にいた子供2人が立っている。しかも打って変わって機嫌の良い顔でだ。
「どうした、2人とも?」
「実はっスね。先生にお願いがあるんですよ。」
「どうしてもイルカ先生にしかお願いできないことなの。」
一見裏打ちのない笑顔。何年もの付き合いがあり彼らの本性を知るハヤテやゲンマなら、今の彼らを見て即座に嫌な顔をして拒否しただろう。だが残念なことにイルカはまだ本当の彼らと付き合い始めて、日がかなり浅い。
卒業したとはいえ、彼らはかつての教え子(うち一人は担当クラス)。根っからの教師であるイルカには、可愛い子供たちの頼みごとを断ることはできなかった。
「何だ?俺にできることなら何でも力になるぞ。」
そう言った瞬間、2人がにやりと笑った………ように見えた。
「「じゃあ、下忍の班分け替えてくれません?」」
「………………はい?」
たっぷり三呼吸くらいの間をおいて、イルカは聞き返した。
今、彼らは何と言った…?
「あたし、ナルと同じ班がいいわ。」
「あ、ずりぃぞ。俺だって同じ班がいいのに。」
「残念。あんた、アカデミーの成績悪いから、無・理、よ。こんなところでサボってたツケが回ってくるなんて、皮肉よね。」
「がぁーっ!こんなことなら真面目に上位に入っとくべきだったかっ。」
「…………おーい、2人とも;」
口論になりかけてる2人にイルカが声をかけると、あやうく脱線するところだったと言いながら話を戻してきた。
「それで、先生には今年の班分けを記した書類を書き換えてほしいのよ。あ、もちろん金庫の鍵も開けてね。」
「い、いや。それはちょっと…第一、金庫のある場所なんて俺は知らんぞ。」
「それは俺らが知ってるんで、ご心配なく。」
「少なくとも、ナルの班の構成は替えてほしいの。何しろあのカカシ上忍と一応サスケ君が一緒だなんて、あたし嫌よ。」
「…何で、彼らを毛嫌いするんだ?いのは確かサクラとサスケを取り合ってるって噂を聞いたぞ。」
「あぁ。あれは、あたしとナルとの関係を周りに印象付けないためと、サクラと張り合うのが楽しかったから。別にサスケ君が好きなんじゃないですよ。」
「こいつ、サクラは気に入ってるんで、それだけのために何かとサスケに気のある振りをして、わざわざサクラで遊んでるんスよ。」
「遊んでるって失礼ね!あたしはヒナタと同じくらいサクラも大好きなの。もちろんナルには劣るわよ。それにサスケ君、ナルに気があるみたいだし。」
「まぁ、あいつはまだちゃんと自分の気持ちに気付いてないんで、」 「そ、そうなのか?(…最近の子の考えはよくわからん;)…じゃあ、畑上忍はどうなんだ?」
聞いた途端に、彼らの表情は一変して、その場の温度が5℃ほど低くなった気がする。
「あぁ、あの害虫っスか。」
「害虫……」
「一言で言えば、変態。二言以上で言うなら、緋月に付き纏う虫。」
「緋月にベタ惚れらしくって、とにかく緋月を見たら、口説くのとセクハラは当たり前。ひどかったら押し倒すくらいはやるんだぜ。」
「そうよっ、あの歩くゴキ!」
「ゴキって…」
「台所に出るアレ。年柄年中どこからともなく緋月の前に現れるし、滝に放り込んでも土に埋めても数日後には復活するんだから、あんなのゴキで十分よ!!むしろゴキ以下!」
「……で、でも、それは『緋月』であって、『ナルト』じゃないだろ?」
「知ってます?あのゴキ、『ナルト』が大嫌いで見る度に殺したくなるそうです。2年ほど前に本人から聞きましたから。」
「でもナルはすごく可愛いし、もし殺されかけて本性が出て、緋月なのがバレたとしたら……!」
恐ろしいと言わんばかりに顔を青くするいの。横にいるシカマルも深く頷いている。
確かに傍目から見ても、ナルトは(口を開かずふざけなければ)大変可愛らしい少年であるし、緋月はミステリアスな雰囲気と中性的な美を兼ね備えた青年であることは間違いない。 修行中には、緋月がよくモテるという話もハヤテたちに聞いたことがある。だから、ナルト溺愛の婚約者であるいの達が心配する気持ちもわからないことはない。
カカシに対する評価が人間以下だったことも忘れて、イルカもつい同意見を示してしまう。
「そうだなぁ……」
「でしょ?それを毎回アイツに付き纏う虫どもを叩く俺達の身にもなってほしいんスよ。」
「そう!だから、下忍の班替えしてほしいなぁ。あたしの班にナルを入れるとか」
「俺とサスケを入れ替えるとか、担当を誰か別のまともな人にするとか」
大切な者を思いやる子供達の言葉に、思わずイルカも考える。しかし………
「だが、ナルトならそのままバレずに、隠し通せることもできるんじゃないか?畑上忍だって、聞いたのが2年前ならもうナルトを殺そうとかいう気も起きなくなってるかもしれないし。」
何よりナルト自身が文句を言わなかったのだから替える必要はないんじゃないか、と言った。
 アカデミーの中でさえナルトへの暴力が止まなかったことと、誰も気付かなかった彼の演技力の高さ。そして彼自身が決して事を露見させないように、常に警戒していること。 そこから考え出されるもう一つの論に気付かぬほど、イルカの頭は悪くない。
しかもよくよく考えれば、一応警護という名目で『緋月』も下忍の班決めの会議の場にいた。班が嫌であれば、そこで何かしらの発言をしているはず。 よって彼はそれを口に出した。

 ところがそうしたのは、間違い、だった。

「あーあ。あともう一歩だったのに。」
「そこで気が付くなんて、イルカ先生も運が悪い。」
そのまま班替えに承諾しておけば怪我しなくてもよかったものを。
そう言われて、彼らの手元に握られている武器に、はっと気が付いた。心なしか表情もにっこり笑顔だが、黒いような…気がする。
「さて、と。イルカ先生。お願い、聞いてくれますよね?」
「まさか、嫌だ、なんて言いませんよね?」
「……(い、いや、さすがにそのお願いはちょっと……もう決まったんだし、犯罪…)」
「大丈夫っスよ。先生が鍵開けて中の書類ちょいちょいと書き換えて、あとは黙ってくれればそれで。」
「それがダメなら、鍵ちょーだい。」
「余計ダメだっ!!」
「頭固いなぁ。」
「そうそう。犯罪じゃないんだから♪ね?」
何で考えてることがわかったんだ?!と恐怖に笑顔を引き攣らせる。向かい合う彼らの方も、目だけが笑っていない。構えられた武器が刃をきらりとさせている。
「おーい、イルカ。何やってんだ?」
そんな中、側にあった窓からアカデミーで働く同僚の1人が声をかけてきた。幸運にも彼は、イルカが教え子たちとにこやかにただ談笑しているように見えているのか、 こちらの緊迫した様子には気付いていないようだ。
「今取り込み中。」
いのがすばやく印が組んで壁に手を当てた。ドカッと隣で大きな音がして恐る恐る振り返ると、ガラガラと崩れ落ちるアカデミーの壁と、直撃を食らって目を回している同僚の姿。
視線を戻せば、そこにいるのは11歳の子供達ではなく、18歳くらいの暗部達。とっさに変化したようだ。彼らが冷やりと、笑う。
「「さぁ。どうする?」」
さすがのイルカも焦り始めてきた。相対するのは里のナンバー2と3。いくら修行しているとはいえ、彼らに勝てる自信などこれっぽっちもない。というか、それ以前に教え子たちに武器を向けるなど、教師として絶対にやりたくはない。
(どうすりゃいいんだ?!姿が違うとはいえ、シカマルたちに武器を向けたくはないし。かといって絶対バレるなと言われている以上、実力をバラすわけにも………えーい!!こうなったらっ)
「あっ、ナルト!」
「「え?!」」
一瞬彼らの気を逸らしてやる。その隙に、アカデミーの屋根を伝って街の方へと全力(7割程度・一部本気)で走りぬけていく。街なら彼らも術を使うまいと考えてのことだ。
「あーーっ!!逃げたっ!」
「んにゃろっ!追っかけるぞ、いの!!」
「もちろんよ!シカマル」
逃がした苛立たしさをぶつけるように、いのが壁を叩くと先程の術でヒビが入っていた壁が更に音を立てて崩れていく。
しかし、彼らはそんなことを気にも留めず、街を駆けるイルカを懸命に追っていった。

「「これだけは、ぜーったいに、かえてやるっ!!!」」

 直情的ないのはともかく、いつもなら冷静なシカマルも、今日ばかりは感情を優先させ冷静さを失っていた。
よって、街中では術を使わないだろうというイルカの読みは完全に外れることとなる。
「「覚悟っっ!!」」
「のわぁーーーっっ!」
繰り出される禁術(らしきもの)を避けながら、イルカはこの時逃げたことを後悔したと、後に全治10日で入院した病院で見舞いに来たハヤテたちにぽつりと語った、と言う。

自分と愛するナルトのためなら手段は選ばず。それが彼ら婚約者たちのモットー。まさに「愛は盲目」。
そして、そうなると「冷静さ」という字さえも辞書から消してしまうほど暴走する2人でもあった。




「…あいつら、何やってんだ?」
「さぁ。でもイルカ先生大変だね。」
「それより、オレとしては、この惨状をどう処理して誤魔化すか。そっちの方が問題なんだが…」
じじぃに怒られるのはオレじゃないのか?とナルトは思わず呻く。
眼前では里の街並みが次々と2人の暗部たちの術やら武器によって破壊され、訳がわからない里人たちの悲鳴が飛び交い、あと一歩でどこの戦場かといわんばかりの惨状が拡がっていた。
「ん〜、否定はしないよ。」
「え〜と、瓦礫撤去に記憶置換。それから建造物修復に………オレを過労死させる気かっ(怒)」 「あはは。大変だね。」 「…終わったら始末書書かせて、あいつらに全部片付けさせるか。修繕費は給料から天引きしてやる。」
「あれ?止めないの?」
「いい修行になりそうだから、放っといていい」
あいつらならイルカ先生を殺すようなマネだけはしないだろ。自信ありげに呟くと、ナルトは金色の軌跡を残して、火影の執務室へと足を運んだ。
その場に残ったチョウジは、だといいね、と心の中で思い、なおも増えつつある被害を見つめながら、お菓子を食べる手を再開した。




―――本日の被害報告。
アカデミーの一部、壊滅(未遂)。里の一般家屋の倒壊・破損、多数。
重傷者・軽傷者、多数、也。


ちなみに余談ではあるが、片付けとやらが全部終わったのは、下忍任務が始まる前日であった………。



〜あとがき〜
お待たせしました!600HIT記念小説『リク・ナルトと同班になるべくイルカ先生を脅すいの&シカ』をお送りしました。
ハルヒ様、リクエストを下さってありがとうございます!こんな感じでいかがでしょう?
当初は決定会議にかけられる前に先生が脅される予定(しかも班決定に関わりがなかった・笑)だったんですが、いつの間にやら決まった後になってしまって…;
えっと、これでよろしければどうぞお納めくださいませ。ちなみに気に入らなかったら返品・作り直し要求可です(笑)