むせ返るような薔薇の香りが、当たり一面を包み込む。 棺に横たわる花嫁姿の少女は、ドレスの純白と花の真紅で美しく飾られていて、まるで人形のようだ。 「お返しいただけませんか。彼女は貴方のおもちゃではありません」 「何を言う。私は彼女をそんな風に扱ったことなど一度もない」
怒りを押し殺した言葉も、目の前の男には通じない。
「うぇ。悪趣味」 青年の1人が痛烈に皮肉な言葉を吐いたが、彼の言葉どおり、男の耳にはそよ風のささやきにしか聞こえなかったらしい。
「さぁ、親方様。始めましょうか」
頷いた男に、隣に控えていた魔導師はにやりと笑い、左に構えた杖を空へと掲げた。
序章
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