あれは、そう。7年も前のことだろうか。
国籍も身分も、歳も違う、たった1人の少女が、何よりも大切なものだと気付いた頃のことだ。
当時、任務の関係もあって道場の師範をしていた俺は、黒髪の幼い少女と出会った。
何度も会う内に、俺は彼女に惹かれていった。ずっと側にいて、護ってやりたいと思った。
思えばそれが「恋」という感情だったのだろう。
しかし、ある時、彼女の国がこの国に襲撃をかけ、戦争が始まってしまった。
戦火は酷くなるばかりで、とうとう少女も迎えが来て国に帰されることとなった。
本当は最後まで一緒にいたい、と願ってくれたが、敵側の軍人である俺と一緒にいることは大変危険だし、何かあれば少女の身内が悲しむからと止めさせた。
国へ帰る日、こちらでできた親友であり俺の弟子である少年に、別れと悲壮な決意を聞かせた少女は、話がある、とこっそり俺を連れ出した。
2人きりになったところで、少女は「ごめんなさい」と「ありがとう」を繰り返した。
「ごめんなさい」は、おそらく自分達のせいで戦争が起きてしまったことへの、謝罪の言葉。
「ありがとう」は、厳しい周りの中で優しく接してくれた俺への、感謝の言葉。
そして、こんな幼い少女にそれを言わせてしまったモノが、止められない俺が、すごく腹立たしかった。
『…あの時、私があんなことをしなければ……私が、ここに、来なければ…っ』
泣きそうな顔で自分を責める彼女をこれ以上見ていたくなくて、俺は彼女の唇を塞いだ。
初めて触れた少女の唇は、柔らかく甘くて、もう少し触れていたかった。
時間にすれば数秒。けれど、その一瞬は長く思えた。
いきなりの出来事に驚いたのか、目を大きく見開いた彼女は、次第に顔を赤くし、目論見通りに黙り込むと俯いてしまった。
その照れた様子が可愛くて微笑すると、俺はそっと彼女を抱きしめた。
『もう一度、会えたなら。その時は……』
耳元で囁いた言葉に、少女は顔を更に真っ赤にして、小さくだが頷いた。
交わされた、たった一つの、小さな「約束」。
けれども少女は、俺とのそれに、世界でいちばん綺麗な笑顔を最後に見せた。


けれど、運命はなんて残酷なのだろう。
戦争が終わって、キョウトから聞かされたのは。
……愛する少女の「死」だった。
それから7年は、名を変えた国の、キョウトに部下共々世話になる日々。
後悔と絶望の縁で、ただ生きながらえていただけの、退屈な日常。彼女がいない世界など、終わってしまったも同然だから、仕方ない。
それでも、死ぬな、と彼女が言っているようで。とりあえずは、生きることを選んだ…いや、選ばされた。
だが、それももう終わりだ。
少しばかりヘマをして、俺は敵の捕虜となってしまった。
「奇跡」などという大袈裟な二つ名を持つ俺は、これからどうやら処刑されるらしい。
拘束されている間、考えていた。
これは、もう生きなくてもいい、ということなのだろう、と。
十分だろう?世界の中で、理由もなく生きているのは。
君のところへ行けるのならば。この体も、命も、もういらない。

幕引きの瞬間まで、カウントダウンが始まる。
5、4、3、2、1……

「ならば、その命。私が、貰い受けよう!!」

世界の終わりに、どこか懐かしく愛おしい声が、響いた。



それはまるで     
世界の終焉のような



藤堂さん独白?でもって、ゼロによる救出作戦直前ってとこです。最後はなんか…病んでるかも?捕まってから処刑寸前までの間、ずーっとルルのこと考えてたらいいな。うん。
っていうか、手出してます(笑)あれ?最初は手出す予定じゃなくて、兄と妹というか父と娘のようなほのぼのムードだったんですけど…。でも個人的にはちょっと満足(ォィ