クロヴィス元総督の荷物襲撃強奪事件。

柩木スザクなる軍人への誤認逮捕。

そして、パレードを一時的に中断させて登場した、黒い仮面の魔人『ゼロ』。

次の日、新聞・雑誌一面を総浚いし世間とテレビを騒がせた、俗に『シンジュク事変』『オレンジ事件』と呼ばれる一連のニュースは、当事者を含む一部の例外たちにとっても影響を呼んでいた。



黒が描いた波紋



――――午前10時23分。

 まずは、アッシュフォード学園から見てみよう。
週末ということもあり学園内は静まり返っていたが、敷地内の寮ではそうでなかった。
食堂しかり、廊下しかり、各部屋しかり。話す生徒たちの声でいつもより数段騒がしかった。
話題はもちろん先日立て続けに起こった2つの事件のこと。放課後の時間帯に、しかも生放送されていただけに、見た者は寮の中にも大勢いたのだ。
クロヴィスの隠された趣味についてからゼロの正体の推測まで、様々な話が飛び交わされていた。
だが、生徒会長のミレイだけは1人様子が違っていた。
事件直後から集めた全ての雑誌や新聞、テレビ、インターネットなどあらゆるメディアに一通りを目を通すと、慌てて寮の自室を飛び出した。
向かった先は、同じ敷地内の少し離れた場所に立つ、クラブハウス。その中に備え付けられた…いや、クラブハウスの方が付属になる、ランペルージ兄妹の居住区である。
「ルルーシュさまっ!!」
リビングルームに飛び込んだミレイだったが、そこにいたのは彼女の求める人物の姿はなく、妹と身の回りの世話をするメイドの2人だけだった。
「おはようございます。ミレイさん。お兄様なら、いませんよ」
見ていたテレビから目を離して、ナナリーはにっこりと笑ってミレイに言った。
「お、おはようございます……れ?…ど、どこに行ったんですか?」
「外だ。カレンと朝早くに出掛けたぞ」
後ろから突然声がしたので振り向くと、先日ルルーシュの部屋に居候を決め込んだ、緑の髪の客人が立っていた。
「じゃあな。ナナリー」
「はい。いってらっしゃい。C.C.さん」
ここ数日着ていた拘束着と違い、普通の洋服(部屋主のものを無断拝借)を着た彼女は、ナナリーに一言挨拶をしてその場を立ち去った。
いきなりのことだったので、ミレイは思わず呆気に取られてしまう。
「今日はお出掛けされるそうです。それで、えぇっと、お兄様のことでしたね。出掛けましたよ」
「あぁ…うん。カレンとなら問題ないわ……じゃなくって!これよこれっ!!」
はた、と自分が着た本来の目的を思い出し、ちょうど映ったテレビの映像に、びしっと指を突きつけた。
「昨日のクロヴィスお義兄様のパレード中断事件のことですね」
「っていうか、この『ゼロ』のことです!」
のんびりとした様子のナナリーに、ミレイが悲鳴に近い叫び声を上げた。
「正義の味方なんて、やっぱりお兄様はお優しい方です。ナナリーの自慢です。でも、あの仮面と衣装では、イマイチお兄様の魅力を出しきれてない気がするんですけど」
「そうよねぇ。あのマント姿はちょっとね…ってわけでもなくて!あれ…やっぱり、ルルーシュ様なんです、ね…」
「だって、スザクさんを助けよう、なんてお優しいことを考えるのは、世界中探しても、あの人を親友と信じていらっしゃるお兄様しかいませんから」
スザクに対して酷い言い様ではあるが、それはともかく、自分でも気付いていたとはいえ改めてナナリーの口から言われて、彼女はガクリと膝をついた。
「でも、私たちが気付いたことは、お兄様とカレンさんには内緒ですよ」
「そうですね。ルルーシュ様に言ったら、なんか固まったままいそうですし、カレンは…ルルーシュ様には嘘つけない性格だから、すぐバレるでしょうし」
「それに、ズルイじゃないですか。私たちに内緒であんな面白いことするなんてっ」
自分も一緒にやりたかった、みたいな言葉に、ミレイは大いに脱力した。
そんなことになれば、あの事件はあれだけで終わったかどうか怪しいものだ。というかそれを言えば、ルルーシュがどれだけ反対するかわかっているからこそ、ナナリーもこの先余程でない限り言わないだろう、と思う。
「…けど、そうよね。確かに、カレンだけなんてズルイわよねぇ」
そう。ミレイは『盾』の騎士。主のために道を切り開く『剣』の騎士であるカレンとは違い、ルルーシュのために箱庭を支え、あらゆるモノから守るのが役目だ。
だけど、ルルーシュが世界を変えるためブリタニアを壊すための準備を、カレンと共に少しずつしていることは知っていた。例え主が何も言わなくても、隠していても、それくらいは騎士なのだからわかる。
けれど、まさか、自分の主があんな格好で、しかもあんなに危険な場所にいきなり登場するとは、思ってなかったのだ(もっとも、見た瞬間すぐにルルーシュだと気がついたのだが)。
「…ここはひとつ、私も強制的に参加させてもらおうかしら…」
テレビの中、ゼロの隣にカレン(らしき人)の姿がちらりと映ったのを見て、嫉妬しなかったといえば嘘だ。
せめて、一言言っておくなりしておいてくれたら、とまだマシだったと思う。どうせルルーシュのことだから、アッシュフォード家の後継ともいうべきミレイまで巻き込むわけにはいかない、とか余計な気遣いをしてカレンにも口止めしていたのだろう。
おかげ様で慌てて、ゼロの正体がどこにもバレてないかとかゼロ=ルルーシュと書いているやつはないか、とか(十中八九ないとは思うが)一応調べる羽目になって、結局ほとんど一睡もできなかったのだ。最初に知っていれば、ここまで焦ることもなく調べられたと思うとちょっと腹が立つ。
そんなミレイの様子を見抜いて、ナナリーは大丈夫です、と声をかけた。
「多分、今の時点で『ゼロ』=お兄様だと確信したのは、私たち以外だとお母様と、あの場でお兄様を見逃したジェレミアさんくらいだと思いますよ」
「沙羅と私も、その中に付け加えておいてくださいね。ナナリー様」
ミレイのためにお茶を入れて戻ってきた咲世子が、笑顔で彼女と彼女の従妹の名も上げた。
わかっていると頷いたナナリーは、再びミレイの方を向く。
「ミレイさん、さっきの案は実行してもらえると嬉しいです。お兄様…いえ、お姉様のためにも、ぜひ」
ルルーシュを思う気持ちはナナリーたちもミレイも同じ。そうなる日が来たとき、主はどんな顔をするのか楽しみだと笑った彼女はもちろん、と頷いた。



――――午後1時過ぎ。

 神聖ブリタニア帝国、本城奥の離宮・アリエス。
庭に面した一室では、食後のお茶を楽しむマリアンヌ皇妃の姿があった。
彼女の後ろには、彼女の守護者である水無月沙羅。更に後方には、給仕をするために控える彼女専属メイドのうち、片割れの姿。そして向かいあって座っているのは、昨日の事件で一目を浴びた軍人、ジェレミア・ゴットバルトである。
実のところ、彼は軍人でありながら、皇帝ではなくヴィ家というかマリアンヌ個人に絶対の忠誠を誓った身である。
それゆえ、ここへはよく出入りしているし、マリアンヌとも主従でありながらこうしてお茶を共にすることが多いのだが……。
「あら、遠慮しなくてもいいのよ?それとも疲れすぎて楽しめる気分じゃないかしら?」
小首を傾げて尋ねるマリアンヌ。大抵の人間は、彼女のこの仕草に惑わされて相好を崩すのだが、残念ながら彼はその部類に入らない貴重な人間だった。
疲れきった顔で首を振ると、お茶を一口啜る。ミントの風味がきいた甘めのお茶は、大変おいしい。
だが、ジェレミアは席についてからずっと黙っていた。
昨日の事件以降、帰りの飛行機内で暴れるクロヴィスを抑えるのに疲れたからでも、その後の始末書と上司からの小言の嵐に嫌気がさしたからでもない。
ただ、彼女自身の口から真実を聞く許可が下りるのを、待っているのだ。
やがて、マリアンヌは手にしていたカップをソーサーに戻した。
「聞きたいことはわかっているつもりよ。ジェレミア」
ふふっ、と微笑するマリアンヌに、ジェレミアはため息をつきそうになった。
「…何故、ルルーシュ様が生きていらっしゃることを、黙ってらっしゃったんですか」
昨日のパレードを中断させた、『ゼロ』と名乗る人物。それが『オレンジ君』と呼んだことで、マリアンヌが見逃せと密かに通信してきたことで、気が付いた。
7年前に死んだと思われた第3皇女が、すなわち『ゼロ』であるということ。
『オレンジ』とは彼の瞳の色になぞらえて名付けられた、ヴィ家の母娘3人だけが呼ぶ大事な愛称――忠誠の証である。
彼女の騎士であるはずのアッシュフォードの孫娘の姿はあの場になかったが、7年前の戦争後、アッシュフォード家がエリア11になる前のあの地域へ移住した時点で気付くべきだったのだ。
しかも、彼女が生きていたということは、必然的に妹姫も生きているということ。それを母親であるマリアンヌが知らないわけがない。
「敵を欺くにはまず味方から、よ。あの子たちは、皇帝から…この国から逃がしたのよ。貴方には話してもよかったのだけど、万が一他の人間があの子たちのことを知って、それがあの人の耳に入ったら、2人は連れ戻されてしまうわ。母親としては、ミレイちゃんたちと日本で平和に暮らさせてあげたいの。けれど、昨日のニュースには本当に驚いたわ」
まさか、あんなに面白いことをしでかしてくれるなんて!
遠い地にいる数時間前の末娘と、まったく同じことを言ってるとは露知らず。
けれど、近年稀に見る上機嫌な様子で(ジェレミアの知る限り、数年前皇帝の髪を寝てる間に生花を絡めた内巻きにして、世界一ハードなワックスでカチカチに固めた時以来である。その時は1週間くらい皇帝が引き籠り、1人事情を知っていた上に証拠に撮った写真を見てはメイドたちと大笑いしていた)、マリアンヌは「さすが私の愛娘」と無邪気な子供のように笑った。対する沙羅は、後ろで微妙な顔をしている。主が楽しそうなのは喜ばしいが、これからどんなことをしてくれるのかルルーシュに多大な期待を寄せ、かつ面白くなければ事態を引っ掻きまわすくらいはしようかなと主が考えてるのがよーくわかるので、それ故にルルーシュが心配でならないからだ。
「それで、ジェレミア。あなたは、これからどうするつもりかしら」
「どうもいたしません。すべては、我が心の内にいたします。我が君」
ですが一つお願いが、とジェレミアは付け加えた。マリアンヌが発言を許し、彼は言葉を続ける。
「もしお許しいただけるなら、我が部下ヴィレッタ・ヌゥには姫様方が生きていることを伝え、姫様の助けに派遣させたいと思います」
ジェレミアの作った純血派は、帝国のためだと思われているが、実はマリアンヌのためのものだ。今はまだ信頼できる部下はヴィレッタ1人だが、彼女は口も堅いし十分使える人物。それに、彼女が新人であった際、ジェレミアが宮に連れてきてマリアンヌに顔合わせさせたので、姫君たちの顔も当然知っている。
少し考えて、マリアンヌは彼の提案に頷いた。
「そうね。あの子たちの手紙だけじゃ(事前情報掴めなくて見所を見逃してしまったら)つまらないわ。でも、これはあの子の力だけでやらなければいけないこと。助け手ではなくて、あくまで様子見と情報収集だけでお願いするわね」
「…Yes, my majesty.」
彼女のファンからは、聖母の微笑みと崇められている笑顔の前に、手紙のやり取りもしてたとはさすが我が君と内心嘆息しつつも、ジェレミアは深く頭を下げた。



――――午後4時56分。

 キョウト、某所。
「いい加減、キリをつけるなりなんなりすればよろしいのに」
ぱらぱらと雑誌をめくりながら、窓の外を眺めて、神楽耶は不満げに呟いた。
一瞬誰のことを言っているのかわからなかった桐原だったが、彼女の視線を追ってある人物を見つけると、あぁと納得した。
「死んだ女のことを思い続ける。一途なことですな」
「でも、もう7年ですのよ?その間毎日毎日あんな鬱陶しい姿を見続ければ、そう思うのも当然ですっ」
憤慨する神楽耶に、改めて階下を見る。
階下にいるのは、巻藁を周りに置き剣を振る、まさに侍のような、1人の軍人の姿。
彼との付き合いは随分長く、今は彼と彼女の指揮下にある中で、もっとも信頼できる部下といってもいい。
しかし、よくよく見れば彼の心も視線も、時折この場にはないのがわかる。まるで、過去を懐かしむように。悔いるように。そんな目だ。
あんなに、と言うが、彼の心中はともかくただ鍛練しているだけの姿を見れば、他の者はもちろん桐原にしてみてもそれほど鬱陶しいとは思えない。
だが、それにね桐原、と老人の名を呼んで、彼女は続けた。
「私、どうもあの2人が死んだとは思えませんの」
唐突ではあるが確信の籠った言葉に、桐原はそれ以上何も言えなかった。
あの2人…神楽耶にとって、この地で出会った親友とも言うべき、2人の異国の姉妹。特に姉の方は強く綺麗で、神楽耶は一目で好きになった。
7年前の戦争時、姉妹に国からの迎えが来た際立ち会ったのは、神楽耶とあの男。そして、それは同時に、姉妹との最後の逢瀬となった。
「あら。この雑誌、ゼロ様の写真がカラーなのね」
「ぜ…ゼロさま(・・)ぁ?!」
天皇という立場の少女の口から出た、昨日から話題の中心にある怪しい男の名前の、しかもいきなりの『様』づけに、桐原は顔を大きく引き攣らせた。
神楽耶はというと、そんな彼を気にも留めず、いそいそと鋏で記事を切っている。よく見れば、彼女の机の上には切り取られた記事の山と、用済みになった新聞・雑誌が乗せられている。
嫌な予感がして、桐原は恐る恐る尋ねた。
「か、神楽耶様…。もしや、この男に、ほ、惚れた、などとは言いませぬな…?」
「何を言うと思えば。そんなことか」
あっさり切り捨てた回答に、ほっとした、その瞬間。
「当り前じゃないの!!仮面と謎に包まれた、正義の味方……これってカッコいいじゃない!」
まるでアイドルを応援するファンのような、ミーハー口調で言った年頃の少女のような姿に、桐原は引っ繰り返った。いくらなんでも、これは冗談で済む話ではない。
と、思ったのが伝わったのか、彼女はミーハーな態度を急に返して真顔になった。
「冗談です。ちょっとだけ」
「ちょっとだけ、ですか…」
神楽耶がそう言うということは、少し心を動かされたのは事実なのだろう。だがそれは、この組織では重要なことなのだ。
「だって、たった1回の登場じゃ、まだ何もわからないであろう。今は、この先の彼の活躍を、じっくりと見せてもらいましょう」
「…そうですな。今は彼よりも解放戦線の方が組織的には大きい。今後彼がどれだけの成果をあげ、どこまでやれるのか、お手並拝見ですな。さすればいずれ、向こうから連絡もありましょうぞ」
桐原の賛同に、神楽耶も大いに頷いた。
そして、また雑誌を捲っていく。写っているのは、ゼロの写真。彼の記事だけを丁寧に切り取って、後でファイリングするために積んでいく。
別に桐原に言った言葉は、嘘ではない。惚れたとまではいかないが、彼の姿を見た瞬間、心に引っかかるものがあったのだ。
「あの方はなんだか、私も彼も知っている人物のような、気がする…」
囁くように呟いた言葉は、今度は桐原の耳には届くことなく空へと溶けた。
階下の人物と同じように、彼女の瞳もまたここではないどこか昔の、懐かしい過去を見つめているようだった。



――――午後7時37分。

 昨日の一件からなんとか立ち直り、朝早くからカレンと共にアジトに来ていたルルーシュは、扇とカレンを交えて昼食後から続いていた打ち合わせをようやく終えた。
外はすっかり暗くなっており、ルルーシュは一度ナナリーに電話を入れ、夕食はカレンと食べて帰る、と連絡した。
そこまでは、まぁよかったのだ。
問題は、彼女が打ち合わせに使った部屋から出てきた(顔を知る者以外は遅いので先に帰らせたため、仮面装着はなし)後。
「打ち合わせ、お疲れさま」
「ようやく終わったのか。長かったから、退屈だったぞ」
「嘘付けテメェ!」
何故か自宅に居座っているC.C.が、ピザを食べながら井上、玉城と共にババ抜きをしていた。
「……いつ、来たんだ?」
「昼過ぎくらいだったか。道がごちゃごちゃしていたから、随分時間がかかったが、おかげであちこち観光はできたな」
「っていうか、この辺りを歩いて観光って言うの、アンタくらいよ。きっと」
カレンが呆れるのも無理はない。
ここは、とあるゲットーの真ん中くらいに立つ、扇グループがアジト代わりに使用しているボロボロ廃墟。
なので当然、遠くに租界が見える以外、周りはすべて見渡す限り瓦礫と廃墟だらけである。歩いていても、たまに犬猫ネズミがいたり、悪人面の人間がいたり、犯罪者がいたり、写真家っぽいのとか探検家っぽいのとか職業人間がいたりするくらいだ。そのため、幼稚園・小学校ではゲットーには近づくなと教えられるくらいなのだから、観光で来る人間なんてまずありえない。というか、入ったら最後、警察すらも身の安全の保証はしないのだ。
「……ふっ。これであがりだ」
「がぁっ。また負けたぁ!」
机の上にトランプを投げ捨てて、C.C.に負けた玉城が叫んだ。宙に舞ったカードがバラバラと床に散らばる。
「結局、通算どれくらいだったんだ?」
「10戦やって、私が4勝、C.C.が6勝よ」
「で、玉城は全部ビリだ」
「悪かったな!!弱くってよ〜っ」
悔しさで顔を真っ赤にした玉城は、机のカードまでぐしゃぐしゃにする。ルルーシュはその様子を、誰が掃除すると思ってんだ、と眺めつつも、何も言わずに傍らの女性2人に目を移した。
「とりあえず、しばらくは大人しく情報収集に徹する。井上、杉山たちと一緒に、必要物資を集めてくれるか?リストはこれだ」
「それは構わないけど、資金はどうするの?これだけの物だと、結構必要よ」
「問題ない。これを使ってくれ」
差し出されたキャッシュカードと通帳を受け取った井上は、通帳に書かれた金額を見て、目を剥いた。
「ゼロっ…このお金って…」
「うぉ。すっげー金額。俺こんな桁見たことねぇ」
「安心しろ。全部私の金だ。借金でも巻き上げた金でも偽金でもなんでもない」
自信満々に告げるルルーシュ。しかし、扇とカレンは、それがおかしいことに気がついた。
「けど、ぜ、ゼロ。君は確かまだが……ぶっ(学生なんじゃ、と続く予定だった)」
「ゼロ!このお金ってまさか、チェ……むぐ(チェス勝負で儲けたやつじゃないですよね?!、と続く予定だった)」
「気にするな。ある所からちょっと報奨としてもらったのを貯めていたんだ。リストのものはそれなりに高いから、今後のためにも必要以上には使うな」
「わ、わかったわ。気をつけます」
何か言おうとした2人の口を器用に塞ぎつつも小さく笑って釘を指すルルーシュに、井上はぎこちなく首を振って、通帳とカードを大切に懐にしまった。
そこへ眼を輝かせて、玉城が自分を指さしてきた。
「俺は?なぁ、俺は?!」
「お前は………井上の荷物持ちだ」
無駄遣いされてはかなわん、とルルーシュは玉城の期待を一蹴する。
「なんだよそれ〜。つっまんねぇの!」
「資金源が確実に決まるまで、どれくらいかかるかわからない。その間の出費は少しでも抑えたいんだ」
「どれくらいかかるか、って、そんなに長いの?」
「目星はついている。けれど私以外はまだ世に顔を出していないし、何ら目立った活動もしていない。今はとにかく実績と世間の評価が必要だ。だがそこに認められれば、今より資金面も戦力面も大幅に良くなるし、そして何より、私達の活動が国家レベルで注目されることになるだろう」
「そ、そんなデケェとこなのかよ?!扇、カレン!」
「う、うん。まぁな」
「そうね。実績を積んで認められれば、この国どころかエリア内でも一番のスポンサーになるんじゃないかしら」
カレンの裏付ける言葉に、井上と玉城は驚愕に目を瞠った。
2人の驚きように満足し、ルルーシュは不敵な微笑を浮かべた。
「覚悟しておけ。これから忙しくなるぞ。何と言っても、ブリタニアに宣戦布告したんだ。我々の目的は『日本奪還』と『打倒帝国』、そして『人種なんて関係ない、誰もが平等で優しい世界を作り上げること』!そのためにまずは、今まで通り手の届く範囲から我々の活動実績を積み上げていく。もちろん『正義の味方』として、な」
それだけは忘れるな、と1人1人の目を見て、彼女は強く宣言した。その姿は、先日まで扇の影に隠れて作戦を立てていた参謀・マリアではない。カリスマ性溢れる新たなリーダー・ゼロである(誰も気付かなかったが、発言の割にやや悪役面であった)。
「ふむ。中々面白そうだな。居候の礼代わりに、私も一枚噛んでやろうじゃないか」
今まで黙っていたC.C.は、宣言し終えたルルーシュに拍手を贈り、そう言った。突然で驚いた一同が振り返れば、彼女は最後の一片を口に放り込んで、ゴチソウサマ、と手を合わせた所だった。
「あぁ〜っ。俺のピザがもうねぇっ!」
「ピザというのは、本当に美味いな。このとろりとしたチーズの食感、色々な具材と合うバリエーション。気に入ったぞ」
「そりゃよかったよなっ。俺らまだ2切れくらいしか食ってなかったんだぞ?!」
「も、もしかしてこれ全部、アンタが食べたの…?」
カレンが指した先には、Lサイズらしき箱が3つ。玉城と井上で4切れくらいしか食べてないということだから、C.C.は2箱は確実に食べたということになる。いくら気に入ったとはいえ、食べ過ぎではないだろうか。
いくら言っても埒が明かないと思ったのか、玉城は怒りの矛先をルルーシュの方へ向けた。
「おい、ゼロ!このピザ女、お前の知り合いなんだろっ。何とかしやがれ!」
「好きで知り合いになったわけじゃない!」
「そうよ!ゼロのせいじゃないんだから、文句があるなら本人に言いなさいよね!!」
「っていうか、それ私たちの晩御飯も兼ねてたのよ。冷蔵庫の中身、あんまりなかったから買ってきたの」
「「…えっ?!」」
嘆く井上に、カレンと扇が顔を唖然とした。つまり、今日の晩御飯は無い、と。
一方のルルーシュはというと。
C.C.のやらかした所業に頭を抱えたものの、冷蔵庫の中に残っているものを見て、これなら何とかなるな、と呟くと、やれやれと仕舞われていた調理器具と冷蔵庫の食材を手にして、C.C.以外の落ち込んでいる一同に声をかけた。
「カレン、部屋を片付けて食事スペースを確保してくれ。簡単なものしかできないが、全員分の夕飯くらいは作れるから」
「…ごはん……?!はいっ。お任せください!ほら玉城、さっさと片付けなっ!!」
「なんで俺が…っ」
「カードを散らかしたのはお前だろう」
「今のはC.C.の言うとおりね。ゼロ、私も手伝います」
「…俺は…こっちの監督が必要だな」
ルルーシュについて簡易キッチンに行った井上に、どっちを手伝おうかと左右を見て、掃除をしながらも争うカレンと玉城を程々で止める準備を始める扇。
少しして部屋には、香ばしい匂いが漂い始める。
これからブリタニアと戦争を起こそうとしているレジスタンス集団がこんなアットホームでいいのか、と思ったC.C.だったが、予想外に自分の分も出された食事に、まぁそれも面白いか、と考え直した。
ちなみに、ルルーシュお手製の晩御飯は、手伝っていた井上があの少ない材料でどうしてここまでできるのかしらと首を傾げる場面もありながら、いつもながらに大変おいしかったようである。



ところが、黒衣の魔人が投げた石によってできた波紋は、魔人自身も知らぬ、思わぬところにもできていた。

それを彼女たちが知るまで、あと数日。



〜あとがき〜
閑話っぽいもの。クロヴィスさん強制帰国翌日のお話です。色々な場所を書いてみました。別名、C.C.はじめてのピザ物語(笑)。あと、ルルとヴィレッタはシンジュク事変で会ってません。ジェレミアと一緒に帰国の護衛にだけ来てたことになってます。
  キョウトのお2人の口調がいまいちわかんない…(泣)けど、影だけでも藤堂さんを出せてちょっぴり満足です(名前出てないじゃんとか、あれそうなんだ、とかいうツッコミはご容赦を;)
さてお次は、ナナリーから酷い言われ様のスザクが学園にやってきます。仮面泥棒猫事件を書くか、すっとばして書くか考え中…。いっそのこと、それ後回しにしてさっさと藤堂さん出せるまで進めようかな。